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脳空間自由飛行
★メインはオリジナル小説(※著作権留保)の掲載... ★観月ありさ、宇多田ヒカル、マリア・シャラポワ、蒼井優、上戸彩、堀北真希、剛力彩芽、新垣結衣 ★小説の読みたい回を探すには「ブログ内検索」が便利!
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かづしげ

Author:かづしげ
★★★「君という光」連載中. 
★長編『アミーカ』 :"R18指定" 18歳になった夏樹は家出して風俗業界に飛び込んだ…
★長編『黒い美学』 :近未来SFアクション. on line RPGで大事件発生!
★短編『10年目の花火』
★長編『ドロップ』 :新人文学賞をめぐるミステリー



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[次回連載小説「アミーカ」の予告]
[予告] オリジナル長編小説「アミーカ」全42回で連載予定
 次回掲載予定小説は、星野一のファーストノベル「アミーカ」です。
 アミーカとはイタリア語で女友達を意味しテーマは女の友情です。ジャンルとしては現代社会における青春アドベンチャーになるでしょうか。主役の女の子佐藤夏樹はある状況から風俗の世界に飛び込みます。数々の事件に巻き込まれた彼女の行く末には何が待っているのか…
 ストーリィの中にスポーツ根性もの(テニス)をサブテーマとして取り入れています。
 風俗の世界がメインで出て来るので、R-18とすべき章が幾つか出て来ます点を予めご注意申し上げます。尚、全体的に観れば性描写は限られておりますので、その点も誤解の無いようご注意願います。

【記事検索のヒント】
 『例:第■回の記事を見つけたい』→左の列にある≪ブログ内検索≫に、”「アミーカ」第■回”と入力し、検索ボタンを押します。めんどくさければ第■回だけでもOK。この時には外の小説の第■回も同時に検索結果として出て来るかも知れません。


 テニスのルールなど分からなくても雰囲気で読み進めていただければ問題ない筈ですが、一応以下『テニスのルール』をゲーム形式で纏めておきます。ご参考になれば幸いです。


++++++++++テニスのルール+++++++++++


《詳註『テニスのルール』》

 長方形のテニスコートは、大きな畳を真ん中に縦に二つ並べ、その両側に横に一つずつ並べた、四畳敷きの形にラインで区画されている。さらに長辺の両サイドにはアレーと呼ばれる細長い区画があるが、それはダブルスで使用されるものだ。
 四畳敷きの形のシングルスコートは、中央のネットで敵味方の両サイドに二分される。
 シングルスコートの一方のサイドは、ネット寄りのほぼ正方形を二つ並べた二箇所のエリアと、後方の長方形のエリアの合計三箇所に区画される。
 前方の二箇所を総称してフォアコートと云うが、右側をデュースサービスコート、左側をアドサービスコートとも云う。そして後方をバックコートと云う。
 バックコートの一番後方のラインをベースラインと呼び、ベースラインの中央にはセンターマークと呼ぶ、ごく短いラインが印されている。
 両サイドのラインはサイドラインと云う。
 ダブルスにおいては、このラインをサービスサイドラインと云い、さらに外側に引かれたラインをサイドラインと云う。
 ゲームはサーバーによるサービスからスタートする。
 サーバーは、ベースライン後方でセンターマークと右側サイドラインとの間の任意の位置に立つが、これをフォアサイドに立つと云う。
 フォアサイドに立ったサーバーは、ネット越しに、相手側フォアコートの向かって左側のエリアすなわちデュースサービスコートを対角に狙ってサービスする。
 ファーストサービスをミスした場合、フォールトとコールされ、ポイントを失わずにセカンドサービスを打つことができるが、セカンドサービスもミスすると、ダブルフォールトとコールされて一ポイントを失う。
 スタートの一ポイント目が終了すると、二ポイント目はサーバーがセンターマークの左側にポジションを変えて(バックサイドに立つ)、相手側フォアコートの向かって右側、すなわちアドサービスコートを対角に狙ってサービスする。これをバックサイドのサービスと云う。
 以降一ゲーム終了まではサーバーは交代することなく、奇数ポイント目でフォアサイドサービス、偶数ポイント目でバックサイドサービスを繰り返す。
 ここで右をフォア、左をバックと云うのは、右利きプレーヤーの場合、右側に来たボールに対してグリップしたラケットの前面を使って手の平の方向へ打ち返し(フォアハンド)、左側に来たボールに対してはグリップしたラケットの裏面を使って手の甲(裏)の方向へ打ち返す(バックハンド)からである。
 レシーバーは、自分のフォアコートでワンバウンドしたサービスをツーバウンドする前に打ち返さなければならない。
 サービス以外のボールはノーバウンドで打ち返すこともできるが、それをボレーと云い、ネットプレー(ネットに近い所でプレーすること)では多用されるショットである。
 サービス以外は、相手コート内であればどこへショットしても良い。
 打ち返したボールが相手コートを外れた場合、アウトとコールされポイントを失う。
 では次にゲームの流れを追って説明しよう。
 アンパイアの試合開始のコール。
「ベストオブスリーセッツマッチ、Aトゥサーブ、プレイ![Best of 3 sets match A to serve. Play.]」
三セットマッチ、Aのサービスゲームでプレイだ。
 一ポイント目(奇数ポイント)は、サーバーAがフォアサイドのサービスを行う。
 Aのサービスはラインをオーバーした。
「フォールト[Fault]」とジャッジされ、Aはセカンドサービスを同じくフォアサイドから放った。
 コントロール重視の力ないサービスを捉え、レシーバーBは強烈なリターンショットを打ち返す。
 Aはこのリターンに追い付けない。鮮やかなBのリターンエースだった。
「ラブ、フィフティーン[Love-Fifteen]」のコール。
 ポイントは〇対一。テニスではゼロをLoveとコールし、一ポイントを十五とコールする。変な呼び方だがこれは覚えるしかない。
 二ポイント目はAがバックサイドからサービス。
 強烈なファーストサービスに対し、レシーバーはラケットに当てることもできなかった。サービスエースだ。
「フィフティーンオール[Fifteen all]」のコール。ゲームポイントは一対一または十五対十五だ。
 三ポイント目はAがフォアサイドサービス。これも強烈、Bはかろうじてリターンしたがラインオーバー。サービスエースでは無いが、ワンタッチエースと呼ぶこともある。
「サーティ、フィフティーン[Thirty-Fifteen]」のコール。ポイントは二対一または三十対十五。
 サーバー、レシーバーの順番でカウントするので、AがBを一ポイントリードしたことがコールでわかる。二点は三十と数える。
 四ポイント目もAが取った。コールは
「フォーティ、フィフティーン[Forty-Fifteen]」
 四十対十五すなわち三対一。三点は四十と数える。
 四ポイント先取した者がゲームを取るルールなので、次のポイントをAがとれば第一ゲームはAの勝ちになる……Aのゲームポイントだ。
 五ポイント目、絶好調のAが連取してサービスゲームキープ。
「ゲームA、ワンゲームトゥラブ[Game A, 1 game to 0.]」
 このゲームはAが取って、ゲームスコアは一対〇という意味だ。
 続いて次のコール。
「エンドチェンジ、セカンドゲーム、Bトゥサーブ」
 ゲーム終了毎にサーバーとレシーバーを交替するのである。
 また、奇数ゲーム終了毎にエンドも交替(コートチェンジ)する。従って次のエンドの交替は第三ゲーム終了時点ということになる。
 第二ゲームはBのフォアサイドサービスから始まって三対二まで進み、ここでレシーバーAが追い付いた。
「デュース[Deuce]」
 三対三または四十対四十だが、「フォーティ、フォーティ」とは云わず、「デュース」とコールする。
 ここからは二ポイント連取した者がゲームの勝者となり、追い付かれればまたデュースに戻る。
 デュースから一ポイントを取ると「アドバンテージA[Advantage A]」と云うようにコールされる。
 またデュースからのサービスは常に奇数ポイント目になるので、必ずフォアサイドからデュースサービスコートを狙ってのサービスになる。
 アドバンテージからのサービスは常に偶数ポイントに当るので、バックサイドからアドサービスコートを攻撃するサービスになる。
 AとBは数回のデュースを繰り返し、遂にアドバンテージAから、BのバックサイドサービスをAが強烈な両手バックハンドのリターンエースを決めて、Bのサービスゲームをブレークした。
「ゲームA、ゲームズアー2トゥラブ [ Game A,Games are 2 to 0.]」
 テニスではサーバー側が圧倒的に有利なので、相手のサービスゲームをブレークして自分のサービスゲームを確実にキープすることが『勝利への道』である。
 二ゲーム目にしてAは第一セット勝利を確信した。サービスは絶好調でキープする自信があるからだ。
 その自信の通りAはサービスの第三ゲームを確実にキープした。
「ゲームA、ゲームズアー3トゥラブ、サービスアンドコートチェンジ」
 エンドとサービスの交替で気を取り直したBは立ち直った。Bが第四ゲームをキープ
「ゲームB、ゲームズアー1トゥ3、Aリーズ[..,A leads.]
 第四ゲーム終わって三対一でAがリード。
 第五、第六、第七、第八とそれぞれがサービスゲームをキープして五対三になった。
(二ゲーム以上の差をつけて)六ゲームを先取した者がそのセットの勝利者である。
 第九ゲームもAがサービスゲームをキープした。
「ゲームアンドファーストセットA、シックスゲームズトゥスリー
[Game and 1st set A, 6 games to 3.]」
 このコールは、Aがそのゲームを取って、第一セットをゲームスコア六対三で勝ち取ったことを意味する。
 ここでもし、双方が当初からサービスをキープし続けたりして、ゲームが五対五になった時はどうなるか?
 ゲームカウント五対五から、六ゲームを先取してそのセットを取ることはできない。
 何故なら単に六ゲーム先取で勝ちにすると、そのセットをサービスでスタートしたプレーヤーが圧倒的に有利になってしまうからである。
 よって五対五からは、二ゲームを連取しなければセットを勝ち取れない。
 自分の全サービスゲームをキープし続けても、どこかで相手のサービスゲームをブレークしなければ、そのセットは獲得できないのである。
 但し、二ゲーム差を付けられずに延々と試合が長引くことを避ける為に、六対六または八対八で「タイブレーク」と云う制度が一九七〇年に採用され、現在はほとんどこのルールで行っている。
 このルールは複雑なのでここでは説明を割愛する。
 三セットマッチの場合、二セットを先取した者がマッチの勝利者となる。
 外に一セットマッチ、五セットマッチなどがある。五セットマッチは三セット先取した者がマッチの勝利者である。)
end

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

オリジナル長編小説「アミーカ」第1回(全42回)
 この小説は星野一のファーストノベルです。星野一(ほしのはじめ)は本ブログの管理人かづしげのペンネームです。アミーカとはイタリア語で女友達を意味しテーマは女の友情です。
 ストーリィの中にスポーツ根性もの(テニス)をかなり取り入れています。テニスのルールについては「RuleOfTennis/MS'sR」カテゴリーの中に記事がありますのでご参照下さい。
 風俗の世界がメインで出て来るので、R-18とすべき章が幾つか出て来ます点を予めご注意申し上げます。尚、全体的に観れば性描写は限られておりますので、その点も誤解の無いようご注意願います。

【記事検索のヒント】
 『例:第1回の記事を見つけたい』→左の列にある≪ブログ内検索≫に、”「アミーカ」第1回”と入力し、検索ボタンを押します。めんどくさければ第1回だけでもOK。この時には外の小説の第1回も同時に検索結果として出て来るかも知れません。




++++++++++これより本編+++++++++++






       「アミーカ」

                   星野 一





     一 夏樹の計画

 ああ、もっともっとお金が欲しい!
 そう夏樹は思った。その途端、不満の渦が巻き始め、竜巻となり、夏樹の心を無茶苦茶に揺さぶった。

 もっと自由になるお金があれば……この前舞浜で見つけたあの服もあの靴も買える。あの服には少しだけ手を加えるんだ。ベルトもブレスレットも、ぴったりのものを探して手に入れる。いっつも制服じゃ好い加減飽きちゃうよ。
 お金が有れば、買い損なったスマップのコンサートチケットだって、ネットオークションで最前列をゲットすることも夢じゃない。
 そうだよ! お金さえ有れば……
 この家を出て、アパートを借りて、うちの親達からも自由になれるんだ。
 学校なんかもう行かない。
 夏休みが過ぎて二学期になると、三年生はクラブ活動禁止だなんて。そんなこと勝手に決めるな!
 クラブでテニスができないんだったら、高校へ行ったってしょうがない。そんなの受験勉強に打ち込みたい人だけでいいじゃん。
 もういい、もういいよ! テニスなんかやめた!
 三年も二年もたいしてやる気ないし、最近じゃ一年生まで練習サボる。ただの仲良しクラブなんて意味無い。
 だからクラブ辞めてもいいんだよ結局。
 お母さんも、お父さんも、なんてわからず屋なんだろう。
 もうこうなったら、酒もタバコもやってやる。元々たいして吸ってる訳じゃないんだからね!
 お母さんたら……私の居ない時、勝手に部屋に入ってあちこち探し回るな。隣で吸っている人がいたら、自分でやらなくたってヤニの匂いがついちゃうんだよ。その位わかってよ。
 お酒だって、付き合いでたった一回飲んだだけじゃん。確かに二日酔いで翌朝、家のトイレでげえげえやったけどさぁ。
 お父さんめ……
 帰りが遅いって? どこが遅いのさ? 八時帰宅なんてすっげぇ早いじゃん! 普通門限は九時じゃないの? 智美の所も、静香の所も門限九時だよ。奈菜の所は七時だけど、たまに遅くなっても何も言われないってさ。お父さんが早く家に帰って来過ぎるんだよ。公務員ってそんなに早く仕事終わるの? 職場から一直線で帰宅なんてださくない?
 男と遊んでるのかって、一体何勘ぐってるの? 男って何さ? 恋人? 愛人? 男友達だったらいくらでもいるけど。
 それとも何か気づいているのかな? 最近、じっと見ているだけで何も言わないこと多いし……
 あれだったらまだ口うるさかった頃の方が全然よかった。
 ああ、奈菜のおうちが羨ましいよ。
 お父さんが、奈菜のパパみたいだったらいいのにな。
 あれ? これじゃお母さんの言い草と同じか。
「奈菜ちゃんがうちの娘だったらよかったのに」……ふざけんじゃないよ。お母さんは、奈菜の一面しか見てないんだから。
 今の奈菜を知っていたら、絶対にそんなこと言える筈が無い。
 お父さんも同じだ。
 大人は皆、物事の一面しか見ていない。真実が見えないなら、少しは黙って見守っていたらどうなの。

 不満の嵐を抜け出して、夏樹は親友の奈菜のことを考えた。
 真実が見えないのは、大人ばっかりじゃない。
 私も、親の事なんか一面しか見てないんだろきっと。全部見えたら、却って怖いかも知れないしね。
 奈菜がああなったのも、母親のアルバイトを偶然見つけてしまったからなんだし。傍目には、すっごく良いお母さんなんだよね、奈菜のママって。
 奈菜のパパは、すっごぉく話のわかる、理想的な父親に見えるけれど……この前の智美の話によると、駅の反対側の方にあるレオパレスで、奈菜のパパが二階の部屋から出て来て、自分で鍵をかけている所を見たらしい。
 それにしてもあんな所、何で智美の奴が歩いていたんだろ? 智美も最近会合に顔出さないし、何だか怪し気。
 まあ、今は智美よりも奈菜のことだよ。
 奈菜のパパは、会社勤めじゃないけれど、自宅に立派な専用の仕事場を持っていて、そこで仕事してるって話だ。確か、設計の仕事だとか。
 だから、よそにアパートを借りる必要なんて、これっぽっちも無いんだよね。一体何のために借りているんだろう?
 とりあえず、奈菜には、この話黙っておこうってことにしたんだけれど。
 この上、奈菜のパパまで変なことしていたら、奈菜は益々壊れちゃいそう。
 それにしたって、よりによって「スピード」なんかに手を出すなんて! 奈菜…………

 スピード……
 うちのマンションの上の階の二三歳の女。高校を卒業した頃から、拒食症でおかしくなって、今でも二日に一回は奇声を上げてる。
 ホント、うるさいったらない。
 初めて気がついたのは確か……向かい側の五号棟の方から叫び声が聞こえたんだ。
 思わず窓を開けて、向かいの棟の様子を見たっけ。
 でも、どの部屋からなのかはわからなかった。それが、うちの六号棟の声が、五号棟に反射して聞こえてるってわかった時はマジびっくり。
 でも、拒食症ってホントかな?
 だって「どこに隠したの!」とか、「苦しいんだよぉ、早く出してよぉ」って言う声が聞こえるんだもの。
 うちはすぐ下だから、大声だけでも迷惑なのに、ドスンドスンという大振動の被害まである。
 あれは、上階の部屋にも両隣の部屋にも相当響いている筈だ。たまに、天井が抜け落ちて来るんじゃないかと思うこともある。
 一旦それが始まると二時間位続くのがたまんない。
 この前はそれが夜中だった……延々と続いた騒ぎの最後は、一際大きい怒りの叫び声。
「嘘ついてたね! こんなに苦しいのに。あるんだったら始めから早く出してよぉ!」
 それっきり嘘のように静まった。
 あれはヤクチュウだよ。上の親達、止めさせようと隠してた薬を、耐えられずに与えちゃったんだろうなあ、きっと。
 私の読んだ本には、S(スピード)みたいなアンフェタミン系の薬物は、肉体的な依存性は無いが精神的な依存性が非常に強いって書いてあった。
 あの「苦しいんだよ」って言う声、肉体的に苦しいのじゃなくて、精神的に苦しいのかなぁ?
 強い鬱状態になるって云うけれど、私にはよくわからない。
 私にもわかることは、絶対にあんなものに手を出したらいけないってことだけだよ。
 あの本、「恐ろしい薬物依存」……
 涼は、その手の変なマニュアル本、ホント好きだよね。あたし、あれ読んで少し怖くなったよ。
 恐ろしい薬物依存になる前に、奈菜がSをやめられたらいいんだけれど。
 三階の女と同じようになって欲しくないんだ、絶対に!
 ああ、でも……もうこの時期になると、高校の友情も終わりかなって思う。
 うちの学校は進学校で、三年生は受験一色になる。
 あたし勉強は大嫌い、成績は悪くないけれど。
 クラブっていうか、テニスが好きで学校行ってるみたいなもんだもん。行きたい大学だってみつからないんだよホント。
 何か習うんだったら、服飾の専門学校かダンススクール。
 それを言ったら頭っから否定された。
 だからもう二度と親には相談しない。
 どうして自分の進路を自分で選べないのか、ホント納得が行かないよ!
 また不満の渦が巻いて来る。
 そして夏樹は、最近立てた計画のことを考えた。

 夏休みになれば十八歳になる。
 あの計画……お金をどうにかして作らなくては。
 だから、稲毛のあのビルに行こう。そこで稼いでお金を貯めて、家を出て、アパートを借りて、自活するんだ。
 もうだいぶ前からだ。親とは心が離れている。
 私が出て行っても気にしないだろう。うちには出来の良い、涼兄ちゃんがいるもの。慶応大学の経済学部在学で成績も良い。
 涼は来春卒業だから、この夏が私の家出のラストチャンスだ。
 社会人になったら涼の奴、独立してこの家を出て行くに違いない。私が先に出て行けば、たぶん涼は家に残る。
 涼が先に出て行って、私と両親の三人だけになったら……もうそんなの最悪! だから確実に実行しなくっちゃ。
 この計画のことは、友達の誰にも言ってない。
 勿論奈菜にもね。
 だって私の本質は、群れないペガサスだから。
 動物占い、何年か前は、すっげえ流行ったのになあ。今じゃ、誰も動物占いのことなんか話さないよ。

 一七三もある長身を、稲毛北高の夏服に身を包んで、夏樹は稲毛駅北側にある小仲台の裏通りを歩いていた。
 短くした紺のプリーツスカートからは、逞しい太腿とすねの長い筋肉質の脚が人目を憚る事も無く伸びている。
 ノースリーブで丈が短かく、左胸に小さなワッペンをあしらったライトグレーのジャケット、その下の半袖のブラウスが夏の日差しを真っ白く反射している。
 夏樹が大股に歩くと、細い紺色のリボンと豊かな胸が小さく揺れた。
 夏休みの初日に夏樹は十八才になり、かねての秘密計画を今まさに実行しようとしているのだ。
(確かこの辺りなんだけどな、ベージュの四階建てマンション)
 そう呟きながら、路地裏の逆トの字型の三叉路で、夏樹は左側を眺めた。
 手元のプリントと同じ建物が、ちょっと先の突き当たり右側に見える。
 遠目にも落ち着いた雰囲気の建物は、近づいてみると中々おしゃれなマンションだった。
「ほんとにこんな所に、事務所と寮があるんだろうか? ここが寮だったら最高じゃん! よっしゃぁ」
 夏樹は心の中で叫んでいた。
 この低層マンションにはエレベータが無い。一階は何かの会社の事務所で、その左側に割と広い階段がある。
 三階を目指して階段を上っていくと、夏樹は心臓が急にドキドキして来るのを感じた。
 去年の夏休み、万引き初体験、あの時の記憶がふいに蘇る。
(ああ 何かいやだぁ。でも今更引き返せない……) 
 夏樹は共通廊下を奥へと進み、外壁よりも濃いベージュペイントのスチールドアの前に立った。
 深呼吸を一つしてから、夏樹は「運命の扉」の番人を呼び出すインターフォンのボタンを押した。★

(以下次章へと続く)



テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

オリジナル長編小説「アミーカ」第2回(全42回)
※お話の中に一部性描写がありますのでR-18とさせていただきます。
[前回までのあらすじ]
 進学校に通う高校3年生の夏樹は、最後の拠り所としていたクラブ活動を失って家を出る決心をする。父母が不信感を抱いている以上に夏樹もまた両親に対して不信感をつのらせていたのだ。母が自分の娘だったら良いのにと言う親友の奈々は家庭問題から薬物依存に陥っていた。
 夏樹は18歳の誕生日に家出して稲毛駅に近いビルの妖しげな一室を訪ねたが…




++++++++++これより本編+++++++++++




( 夏樹は共通廊下を奥へと進み、外壁よりも濃いベージュペイントのスチールドアの前に立った。
 深呼吸を一つしてから、夏樹は「運命の扉」の番人を呼び出すインターフォンのボタンを押した。★)




     二 ネットで見つけた風俗

 そのドアには、手元のプリントの通り、「リコリス」と云うプレートが掛けられていた。
 落ち着こうとして、今日初めて訪れたこの事務所の、内側にある応接室の様子を夏樹は頭の中にイメージした。
 ライトブラウンのフェイクレザーロングソファと、小さなガラステーブルを挟み同色のシングルソファが二脚並んでいる。大きな窓、明るい部屋。
 そこで行われる面接の手順も、仕事の段取りの説明も、夏樹は前もってわかっているような気がした。
 面接ではこんな話が出る筈だ。
「緊張しないで自然に振舞えばいいんですよ。お客様も、そう云う女の子を好むのですから」
「仕事は楽ではありませんが、頑張った分報酬もいいですよ」
「ディズニーランドと同じエンタテインメント産業です」
 事実、夏樹は大方の所は知っていたのだ。
 それでも、インタフォンから応答の声が聞こえたその瞬間に、夏樹はその場から逃げ出したい衝動に襲われた。

 一週間前……
 いつもの夏樹ならインターネットにつないでも、ブティックとかイベント情報などしか見ないのだが。
 その日は父親の、まるで化け物でも見ているかのような奇妙な視線を感じて、夏樹の神経はかりかりと苛立っていた。
 ムカつく気持ちを静める為に、次から次へとネットサーフィンする。
 そして夏樹は、リンク情報「風俗最前線」をクリックしてしまった。それがそもそもの秘密計画の始まりだったのだ。
 あらら、風俗ってこんなにも種類があるんだぁと、夏樹はびっくりした。
「ソープランド」「ヘルス」「デリヘル」……
 ソープって何だったっけ? ヘルスもデリヘルもわからない。
「ピンサロ」これもやっぱりわからない。
「SMクラブ」これはわかるけど、かなりやばそう!
「イメクラ」これは聴いたことある。
 たくさん情報が出てくるのは始めの三つだった。
 夏樹はその大きな目をキラキラさせて、次から次へとクリックして行く。長いまつげは、ディスプレー情報を読み取るための視線移動に合わせて、頻繁に上下動を繰り返す。夏樹の目は、獲物を追い詰める妖しい雌豹の目になっていた。
 夏樹はマウスを操りながら、目から情報をインプットして、灰色の脳細胞を刺激し続けた。
(何々? ヘルスとソープは、本番の有る無しの違い? へえ!)
 共通するのは、どちらもシャワーがあって、全身リップサービス、パイ擦り、生フェラ、クンニ、69、口内発射などのサービスがあることだ。
(ふうん)
 ヘルスではその他、素股射精のサービス有り……
(一体なんのことだろう? 辞書にも無い。素股って何?)
「デリヘル」……出張型のヘルスで、デリバリーヘルスの略。
(なぁるほど! お惣菜か、パンみたいなものに関係有るのかと思ったら、デリ=デリバリーだったのかぁ)
 夏樹は妙な所で感心する。
(でも男の子から見たら、女の子はおいしいご馳走なのだから、まるっきし関係が無いこともないか)
 夏樹は一人で納得して、くすっと笑った。
 そこら辺までホームページ情報を読んで行くと、ヘルスが雑居ビルの個室で行うHなサービス産業であることは、以前に何かの雑誌で読んだことがあると、夏樹の記憶が蘇った。
 その時は、なんか不潔な仕事だなあと嫌悪したことも、同時に思い出した。
(雑居ビルの個室でも、シャワー設備があるなら、それほど汚く無いじゃん)と、何故だか今は好意的になっている。
(男の子はいいよなぁ、こんなに色々な風俗があって。女の子にはサービスする側しかないもんねぇ)
 どういう訳か、夏樹は男女の不公平を嘆いていた。
 夏樹は次から次へと、心の中で風俗産業を斬って行く……

 あ、ホストクラブがあったではないか!
 いやいやあれって、TVで見たけど、イケメンのホストにめっちゃぼられることになるんだよなぁ。数万円から十数万円もかかるような話だったし。
 それに、あいつらみぃーんな性格悪そうだった。
 やっぱ女は、男よりいつだって損してんじゃん!
 ソープは、もろアレをする所っていうのがダーティイメージ。お風呂があるから、清潔そうではあるんだけどね
 ヘルスは、女の子もお客も若々しいって感じ?
 でも次から次へと、お客に付かなくっちゃならないっていう所がやだやだぁ。女の子は、男の子の為の公衆トイレじゃないんだかんね!
 それにちょっと貧乏臭くない? 雑居ビルの一室って云うのが、やっぱ貧乏くさぁ
 ピンサロは問題外!
 これだけはイヤ。本当にノーサンキューだよ。
 シャワーは無いし、個室でもないし、お酒も飲まなくちゃいけないし、酔った客相手に全ての処理を暗い客席でした上に、お手拭だけで後始末して綺麗にするんだって!
 そんなんで綺麗になる訳無いじゃん! しかも、五反田辺りでは本番有? うっそぉ信じらんない!
 ピンサロと比べたら、まだヘルスの方がずっと明るくて清潔。
 清潔っていうことならソープが一番かな?
 お店専用のビルも、お風呂付の部屋もかなり綺麗。
 あ、このソープもすっごい綺麗なバスルーム。でも、ソープ嬢のサービステクニックって、本格的で超難しそう!
 SMクラブねぇ、ううん。
 痛そう! 怖そう! クセになりそう! お客もきっと変態ばっかりなんじゃないの?
 イメクラは、イメージ暗いの略かもね……

 夏樹は勝手な想像をして、イメクラの調査については放棄した。
 惹かれたのはデリヘルだった。
 いつのまにか、夏樹は働く立場から風俗を考えていた。
 自分が、都合の好い所だけを見ていることには気が付いていなかったが、走りながら考えるタイプの夏樹にとってはそれが自然なのだ。
 デリヘルのページでは、勤務時間自由、制服も原則無し、というのが特に気に入った。
 やりたくないサービスも、各コンパニオンである程度選択できるらしい。
 HPの女の子紹介欄には、「私のできないサービス」として×印を予め表示している。
 サービスする場所は、お客様の自宅かホテルの部屋。
 これって全然普通だなあと思えて、その点では夏樹は全く抵抗を感じなかった。
 しかしデリヘルの怖いのは、どんなお客が待っているのかわからないという所だ。それ位は夏樹にもわかっていた。
 様々な思いを巡らせながら、千葉市地域にあるデリヘル店を探して行くと、どうやら稲毛に本部を持っているチェーン店を見つけることができた。
 お店の名前は「リコリス」。意味不明だがどこか可愛いらしい響きだ。
 この「リコリス」のホームページは、非常に良くできていた。
 特に「求人」の欄についてはQ&Aまで付いていて、読む人にとってはとても親切だ。
 たぶん経営者が女性だから、細かい所まで気が行き届いているのだろう。
 事務所のあるビルも、きれいな面接コーナーも写真が載せてあった。
 しかし、全体のイメージはソフトでも、「リコリス」は求人欄の始めの断り書きで、
「この仕事は冷やかしではできないし、厳しい自己管理が求められます」と求職者に注意を喚起していた。
 その次には、
「仕事は楽ではありませんが、頑張った分報酬も良いですよ」と云う店長のコメントが、アメとムチのように載せてある。
 そして女性オーナーは、そのコメントの中で、
「デリヘルは、ディズニーランドと同じエンタテインメント産業です」と言っていた。
 求人コーナーには「お仕事の流れ」と云うタブがある。
 ここを読んで、なぁんだ簡単じゃん。私でもすぐできそうと夏樹は思った。
 もう一つのタブ「面接について」をクリックすると、ある日の、応募者と店長の面談の様子が記載されていた。
 固くなっている応募者と、応接する店長の横顔写真がある。応募者の目は黒消しされているが、見守る店長の視線は温かそうだ。
 やり取りの一部には、
「緊張しないで自然に振舞えばいいんですよ。お客様もそう云う女の子を好むのですから」と云う店長のセリフがあった。
 一通り見て行く内に、ここにしようと夏樹はもう決心していた。
 オーナーやスタッフの自己紹介タブをクリック。ふむふむ。
 リコリスで働く女の子たちのコメントタブ「コンパニオンから一言には、女の子の顔写真とそのプロフィールが記載されていた。
 明るくて、大人っぽい雰囲気を持つ二十歳。素敵な形に仕上がったショートヘア、ミニスカートが良く似合うプロポーション。
 一見すると彼女はファッションモデルのようだった。コンパニオン経験は三ヶ月とある。


テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

オリジナル長編小説「アミーカ」第3回(全42回)
※ストーリィ中に一部"性描写"がありますので"R-18"(=18歳未満お断り)とさせていただきます。尚、性描写は風俗の世界を描く上で必要最小限に抑えており、実体は友情をテーマとする物語です。

[前回までのあらすじ]
 高校3年生の夏樹は親子間の確執から独立を決意したがその為には資金が要る。18歳の誕生日にデリヘルの事務所リコリスを訪ねた切欠は、疎外的な父の視線と風俗系のネットサーフィンだった。リコリスのホームページには面接の様子やコンパニオンの一言なども記載されていたが…




++++++++++これより本編+++++++++++






( リコリスで働く女の子たちのコメントタブ「コンパニオンから一言には、女の子の顔写真とそのプロフィールが記載されていた。
 明るくて、大人っぽい雰囲気を持つ二十歳。素敵な形に仕上がったショートヘア、ミニスカートが良く似合うプロポーション。
 一見すると彼女はファッションモデルのようだった。コンパニオン経験は三ヶ月とある。★)

「ミポリンでぇす。
 私は風俗の経験が無くて、リコリスに初めて面接にやってきた時は、ホント緊張しまくりでした。だって雑誌でしか、このお仕事のことを知らなかったんですよ。
 でもあの日、思い切ってリコリスを訪ねてみて、本当に良かったと思っています。
 スタッフの方の面接はとても丁寧で、疑問に思ったことをぶつけてみると、一つ一つきちんと答えてくれました。
 正直言って、イヤな所だったらすぐ帰ってしまおうと思ってました。でも、面接が終わった頃には、ここで頑張ろうって思えたんです。
 東さん、あ、リコリスの店長さんで、四十代のおじさんですけど、この人なら信用しても安心だなって感じました。
 もちろん、他のスタッフも良い人ばかりですよ。
 社長さんとも話しました。
 若いからと、私を見下したような所は全然なかったし、社長さん自身もまだ三十前なんだって。
 落ち着いていて、とっても素敵な女性で、頼れる先輩って感じだったかな。
 今まで会ったお客様も、全く普通の方ばかりで、私がまだ新人だと知ったら、色々な事を教えてくれたりして、親切な人が多かったな。
 二日目に、一見コワモテのお客様に当たった時は、ああどうしようって思ったんだけどね。
 意外にも、その人って、とても優しくておもしろい人だったんだよ。お得意様にもなってくれたし、ミポリンもとても嬉しかったんだ。
 まだ私自身は当たった事はないけれど、中にはクセのあるお客様もいるらしいの。でも送り迎えのスタッフが、私のお仕事が終わるまで、傍で待機してくれているからホント安心なんだ。
 最近、ブランドもののショッピングなんかに凝っちゃって、欲しいものがたくさんあって困ってるの。しっかり貯金しなくちゃいけないとは、いつも思っているんだけどね。
 ああ、取り留めない話になっちゃって、ごめんね。
 もしも私に、可愛い後輩ができたら、色々なことを教えてあげたいな。
 その時はよろしくね! じゃあ私はこの辺で」

 夏樹は、ミポリンのコメントを読んでさらに決心を固めた。
(ぜってぇ、この仕事で頑張って自立する。ダンススクールだって、自分の力で行って見せるぜよ!)
 心の中で、コミックのヒーローになったつもりでそう叫ぶと、さっきまでのもやもやは、すっかりどこかへすっ飛んでいた。
 リコリスの求人欄をその場でプリントアウトすると、夏樹の決心は現実化した。

 それからの数日間は、なんとも誕生日が待ち遠しかった。リコリスの採用は、十八歳以上となっていたからだ。
 誕生日前日、一学期末、夏休みイブ。その日が夏樹のDデイだった。
 終業式が終わった後で、夏樹は一学期最後の遊び仲間の集会に出た。
 一学期中に学校やクラブで起こった色々な事件とか、バラエティ番組などで見たり聞いたりしたおもしろ話とか、好きな歌手やグループのコンサートや、イベントの話題などを一頻りだべった後で、遊び仲間たちは口々に、
「高校3年生、最後の夏休みをエンジョイするぞぉ!」と叫んでエールを交換した。
 その実大方の者は、来春に迫った受験勉強の追い込みのことを考えていた。その中で夏樹だけは、秘密計画を実行するぞと心に誓っていたのだ。
 その日の夕方。
 夏樹は、マックの奥のテーブルにたった一人だけで陣取った。
 その夏樹は普通に見れば、遊び友達と待ち合わせている、夏休みモードに入ったお気楽な女の子位にしか見えなかっただろう。
 携帯の番号を押す、夏樹の指に妙に力が入った。
「はい、リコリス」
 最初の応答はぞんざいだったが、面接希望の者ですと夏樹が話すと、その男は急に丁寧な応対になった。
 夏樹は、いつもよりはずっと大人しく携帯の向こう側と話していた。折角の決意がにぶらないようにと、明日の面接の約束を取る為である。
 今までに何度かしたことのあるバイト希望の電話の時とは、緊張感がまるで違っていた。それは遊びの為ではなく、明日からの自活を賭けた就活だったからだ。
 電話を終えた夏樹は、気が滅入っていた。
(さっきの人 私の声が少し震えていたことに気が付いたかな? ああ だっせぇな、あたし)
 肝心な時になって、気が小さい自分を呪った。こんなことは、夏樹にとって初めての経験だった。
(まあ明日がんばんべ)と気を取り直す。とにかく約束は取れたのだ。
 夏樹は、一仕事終えた清々しい気分でマクドナルドを後にした。気分転換が早いのは夏樹の最も良い所だ。
 背水の陣を敷いたその夜。
 夏樹はRを公園に呼び出し、最後の賭けに出た。
 賭けは裏目に出た……

「はい、面接希望の方ですか?」
 若い女性の声が、リコリスのインタフォンから返って来た。
 夏樹は、外壁よりも濃い、ベージュペイントのスチールドアの前で、今まさに吹き上げて来る臆病風を、どうにかこうにか押さえ込み、その長身を小さく折り畳むようにして、
「はい、佐藤です」と答えた。
 その声は小さかったが、きっぱりとした意志を感じさせるものだった。







     三 リコリス

 運命の扉は思いのほか静かに開いた。
 玄関へ応対に出て来たのは、見た目三十手前のどこか垢抜けないOLだった。
 俯いた視線の先に、サンダル履きの足元が見え、ストッキングの片側に小さくはない伝染を見つけた。愉快だった。身構えていた夏樹は、それだけですっかりリラックスしていた。
「どうぞこちらへ」
 OLが先に立ち、短い廊下の先にある最初のドアを開けた。
 一つ目の部屋はダイニングキッチンになっていて、左手にはテーブルを挟んで、椅子が両側に二脚ずつセットされている。
 一歩進むと、椅子に腰掛けた青いチャイナドレスの女の後姿が見えた。
 深いスリットからはほっそりとした脚が覗いている。視線を上げれば白く輝く美しいうなじが目に映る。
 続いて、向こう側の椅子の背に左手を掛けて立っている、スリムジーンズの女と目が合った。
 全体にスレンダーなボディで、身長は一六〇位、小顔に吊り上った目をしている。右手に下げた300MLサイズのペットボトルがゆっくりと揺れていた。
 立っている女がウィンクして小さくあごをしゃくると、座っているチャイナドレスの方の女が夏樹を振り返った。
 女は下から上へさっと視線を走らせて、夏樹と目が合ったその瞬間、きらりと切れ長の目を輝かせた。
 ショートヘアの似合う、卵形の小さな顔と細い首。鼻筋が通って顎も口も小さいが、はっきりした口角と目の光には意志の強さが現れている。全体に醸し出されるのは完成された大人のムードだ。
 TVやスクリーンや雑誌などを除けば、夏樹がこれまで見て来た人の中で一番の美人だ。夏樹は思わずその女に見とれた。
「あなたこれから面接なの? 落ち着いてね」
 小首を傾げると、ショートヘアがさらさらと流れた。
 魅惑的な笑顔を作り、女は夏樹に声を掛けた。深みのある心地よい声だ。
 女の挨拶に答えようとした時、その女の顔に見覚えがあると夏樹は直感した。
「あ! ミポリン」
 思わずそう言ってしまってから、夏樹は直後に後悔した。
 そして両手を膝の前に揃え頭を下げて、とり繕う様に言葉を継いだ。
「……さん、今日からどうぞよろしくお願いします」
「採用されたらよろしくね」
 ミポリンは、「たら」の部分の音階を心もち上げて答えた。
 夏樹の失礼な挨拶を気にしてもいないのか、優しげな眼差しを見せている。夏樹はこくんと頭を下げた。
 口角を引く様に微笑んで、夏樹に対し小首を傾げてから前に向き直ると、何事も無かったかのように、ミポリンは立っている女へ話し掛けた。
 立っている女も、夏樹からミポリンに視線を戻した。
 二人はさっきまでは、誰かの噂話をしていたらしい。
「……それでね、あずさ……」
(立っている女の方はあずさかぁ、顔はそこそこかな?……写真では丸顔に見えたのに、生のミポリンは卵型でずっと良い女だ。それでもとても二十歳には見えないよ。それに身長も確か一六五だったっけ。あたしの方が八センチは背が高いし、年だってずっと若いもんねぇ)
 女のランクに、身長と年齢がどう関係しているのかわからないが、夏樹はその点に優越感を見出した。
 三人の女達は、一瞬の内に互いに相手を評価していたのだろう。夏樹は、みぽりんには自分がどう映ったのか少し気になった。
(たぶんミポリンが、ここのナンバーワンに違いない)
 面接が始まる前から、このリコリスで自分がミポリンへのチャレンジャーになるだろうと、夏樹は予感していた。
 夏樹は直感が強く、敵意というものに対しては特に敏感だ。
 そして、好意についても敏感である。
 しかしこの時のミポリンが、夏樹に敵意を持ったのか、好意を持ったのかは全くわからなかった。
 とにかく、もう夏樹の臆病風はどこかに消えて、代わりに特有の闘争心がめらめらと湧いてきた。
 OLは何事も無かったかのように、ダイニングキッチンと間仕切りされた、ベランダ側のリビングルームの中へと夏樹を案内した。
「ここでしばらくお待ち下さい。担当の者が間も無く参ります」
 OLは夏樹に礼をしてから、ドアを閉めて立ち去った。
 夏樹はロングソファに腰掛け、ミニスカートにした制服からすんなりと伸びた足を斜めに置いた。慣れない姿勢である。
 何度かその足を組み替えていると、失礼しますと言って、さっきのOLがお茶を二つ持って入って来た。
 OLは、長椅子に腰掛けた夏樹の前に、一つ茶碗敷きを置いてから茶碗を静かに載せる。次にその向かい側にも一組置いて、失礼しましたと礼をして、ドアをそっと閉めて出て行った。
(マニュアルどおり?)
 夏樹はくすりと笑った。



  

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

オリジナル長編小説「アミーカ」第4回(全42回)
※ストーリィ中に一部"性描写"がありますので"R-18"(=18歳未満お断り)とさせていただきます。尚、性描写は風俗の世界を描く上で必要最小限に抑えており、実体は友情をテーマとする物語です。

[前回までのあらすじ]
 高校3年生の夏樹は親子間の確執から独立を決意したがその為には資金が要る。18歳の誕生日にデリヘルの事務所リコリスを訪ねた切欠は、疎外的な父の視線と風俗系のネットサーフィンだった。
 リコリスのホームページを読む内、所属の女の子の自己紹介記事で気になったのがミポリンだった。採用は18歳以上、決意が鈍らぬようにと夏休み前日即ち誕生日前日に電話を掛け面接の約束をとった夏樹だったが、その声は意に反して震えていた。それはその夜Rに答を迫る為の排水の陣だったが、賭けは裏目に出た。
 事務所の奥のリビングへと案内される途中、夏樹はダイニングキッチンでミポリンを見掛け失言する。ミポリンに瞬時に値踏みされた夏樹だが、彼女こそリコリスのトップだろうと直感し持ち前の負けん気が奮い立った……




++++++++++これより本編+++++++++++



[ OLは、長椅子に腰掛けた夏樹の前に、一つ茶碗敷きを置いてから茶碗を静かに載せる。次にその向かい側にも一組置いて、失礼しましたと礼をして、ドアをそっと閉めて出て行った。
(マニュアルどおり?)
 夏樹はくすりと笑った。★]
 手持ち無沙汰のまま、夏樹は部屋の周囲を見渡してみる。
 ライトブラウンのソファ、ガラステーブル。どれもあの時プリントしたものと同じだ。
 夏樹は頭の中で面接シミュレーションを始め、リコリスと契約し、明日からの初仕事のことを想像した……
 そこに至って今更ながら、自分の性経験の少なさに漸く気が付いた。

 高校のテニスクラブの時の、一年先輩のYとの経験が先ず頭に浮かんだ……
 Yとの三回で私自身は頂点まで達したことは一度も無い。
 Yは早漏だった。自分だけ先に往っちゃって。
 まあYには悪いけれど、彼とのことは元々本気じゃなかった。
 いざその時になると別の人のことが頭に浮かんで来る。だから集中できない。
 うまく行かなかったのは、きっと私のせいだろう。
 ……次に夏樹が考えたのはRのことだ。
 Rは、高校の先輩でもテニスの関係者でも無い。
 Rのことを思うと、夏樹はちょっと切なくなった……
 Rとは十二回もHしている。
 それなのに本番まで進んだ事は無い。
 R…………あの長い指先だけで、私は何度も往っちゃった。
 だから私も、Rを喜ばそうと本気で頑張った。
 口と手でRを往かせたことは何度もあったけれど……あいつはいつも本番直前で萎れた。
 Rと二人して一緒に絶頂まで達することができたら、どんなにか幸福だろう。
 でも、そのRとの未来はもう画く事ができないのだ……

 結局夏樹には、完全なセックス経験など一度も無かった。
(こんなにも頼りない私の性経験だけで、ホントにデリヘルなんて大丈夫なのだろうか?)
 夏樹は押し寄せる不安の中で、両手で自分の胸を抱き締め、大きな目を伏せた。
 丁度その時、ドアを開けて、ノータイにジャケット&パンツ、見た目からして四十代と思われる、ひょろっと背の高い男が書類を抱えて入って来た。
 その風貌はとぼけているのか、真面目なのかわからないが、妙な味のある男だ。

「佐藤夏樹さんですね。緊張しないで楽にしてくださいよ。いつでも自然に振舞えばいいんですよ。お客さんもそういう人を好みますからね。大丈夫、ゆっくりお話させていただきますから。私は店長の東と申します」
 その中年男が、ちょっと節を付けた口調で、どっかで聞いたようなことを言う。
 夏樹は、思わず声を出して笑ってしまった。
「おやおや? ここへ来た事を後悔しているように見えましたが、私の勘違いでしたか?」
 口調は変わらないが、折り目正しい感じで、男は飽くまで丁寧に話しかける。
 夏樹は背筋を伸ばし、きちっと座り直した。
「あ、ごめんなさい。ホームページで見たとおりの人だったので、つい」
「ああ あの、ある日の面接とか、ミポリンの話とかを君は読んで来たんだね?」 
 東の言葉はさっきよりも少し砕けた感じになったが、好感度は保っている。夏樹は楽になった。
「はい、読みました。それにミポリンさんとは、さっきダイニングキッチンで会いました。先輩方に先程は失礼しましたとお伝え下さい」
「ああ、まだあなたは採用と決まった訳じゃないのだから、今からそんなに気を使う必要はありませんよ」
「うん、それもそうですよね。まだ私もここで働くと決めた訳じゃないし」
 別に、東の言葉に反発したつもりはないが、夏樹は反射的にそう言った。
「そうそう、それでいいんですよ。
 この仕事をするということは、即ち自立することですから。この意味はわかりますか?」
(何それ?)
 夏樹は一瞬そう思った。
 でもバカにしている訳ではないようだ。夏樹は素直に質問した。
「良くわかりませんが、どういうことでしょうか?」
「わかった振りをしない所が、とても良いですね。あなたは若いのに、かなり頭の良い方だとお見受けしました。うちの求人欄もよく読んでからいらっしゃったようだし」
 東はそう言ってから、少し目を細め夏樹の全身を鑑定する。
(昨日、この娘からの電話をスピーカフォンで聴いていた社長は、一体何を感じたものか、明日の面接、私も見せてもらおうかなと言ったが。この娘の一体どこが気に入ったのだろうか?)
 東は考える。
(そのボディが極上品であること。それは制服の上からでもよくわかる)
 まあ良いかと、思い直した東は話を再開した。
「自立するとは、文字通りの意味です。リコリスは人材派遣業なのです。貴女がここで働くことになった場合には、一定の技術を持つ人材としてリコリスに登録することになります。この時、職業分類上貴女は、フリーの自営業者になります。即ち、自立していることになります」
 東の話は、夏樹にとっては意外なものだった。
「私、リコリスの従業員になって、仕事をした分だけ歩合とか能率給をもらうのだと思っていたんですが、違うんですか?」
 東は、その質問を始めから予想していたように答えた。
「そう理解してもらっても基本的には問題はありませんよ。多分他の娘達も、普段はそう思って働いているでしょう。しかしながら、法律的には人材派遣業の方が都合が好いし、リコリスは純粋にその方法で経営しています」
「法律的にですか?」
 夏樹は大きく瞬きをした。
「そうです。リコリスの仕事は合法的なものです。リコリスがお客様から受注する人材には、所定のサービスを提供する為の技術や能力を十分訓練しますが、この所定のサービスの中には本番はありません。もし本番というものが、提供するサービスの中に始めから含まれていれば、売春防止法に触れて犯罪になりますからね」
 夏樹は何でもする覚悟をして家を出て来た。
 現役女子高生が学校を捨て、家を捨て、愛を捨て、一人暮らしを決意して新たなる人生へ船出する以上、夏樹は全てを捨てる覚悟だった。
 当然、その覚悟の中には本番も含まれていた。最後の「賭け」に負けた以上、操を守る必要などないのだから。
 本番をしなくて済むならその方が良いに決まっている。しかし後になって暗黙の内にそれを強要される位なら、始めからはっきりさせておきたかった。
「じゃあ、本番は本当にしなくてもいいんですか? 確かにQ&Aの中にもそう書いてあったようですが。私、信じられません」
 ヘルスなら、スタッフのいる店にお客の方がやって来るのだから、客も本番なしのルールを守るのだろう。
 本番がしたければソープに行けばいいのだからと、夏樹は漠然と考えていた。
「ヘルスも、ソープも、デリヘルも、仕組みはどれも似たようなものですよ。法律は誰もが守らなければなりませんから」
「でも、ソープは本番有でしょう?」
「ソープランドでも、実は『本番有』とは謳っていませんよ。利用者がそれを当然のように期待しているだけです」
「ええ! そうなんですか?」
 夏樹は、驚きで目を真ん丸くした。
 東は、その大粒な目と長いまつげに少し惹かれた。
「本番有などと広告したら、ソープランドだってすぐに警察の手入で業務停止。関係者は即逮捕されてしまいますよ」
「だってソープには、実際本番が有るじゃないですか!」
「実際には有るでしょうが建前上は無いことになっています。さっきも言った様に仕組みは似たようなものです。ソープランドは、利用客から高い入浴料をいただいて、女性付きの個室型お風呂を時間貸しするのです。ソープ嬢は入浴介助を、セクシーな方法で行うというだけのことです」
「そのセクシーな方法には、本番は無いということですか?」
 今や夏樹は事情聴取する刑事のようだ。
 一方の東は、予備校講師のように立て板に水と云う感じで、目の前の生徒に対し説明を続ける。
「そうです。個室に入ってから、お客が本番をしたいと、個人的にソープ嬢と交渉する形を取ります」
(やはり本番はあるんだ。巧い理屈が付けられるもんだよなぁ)
 夏樹は心の内で納得した。
(でもその仕組みはおもしろいかも)
 夏樹は寧ろそちらの方へ興味が向いた。
「そうすると合法なんですか?」
「ソープランドの経営者は、直接関与していないので合法です。ソープ嬢が本番サービス料として金品を要求した場合は、そのソープ嬢は売春行為で有罪。お客も買春で有罪です」
「じゃあ、ソープ嬢達は皆逮捕されてしまいますよね」
「日常的にそういうことが行われている証拠があれば、逮捕される可能性は高いですよ」
「でも実際には逮捕されない?」
 夏樹は、世の中の巧妙なカラクリに近付いて、少しわくわくしていた。
「そうです。先ず密室の中の出来事だから、金品のやり取りも本番行為の有無も立証が難しい。当事者が合意しているなら、違法行為については、双方とも否定しますからね」
「ああ、そういうことですか、なるほど。でも突然警察の手入があった場合はどうなりますか?」
「ソープランドの場合は、いわゆる赤線地区という特定地域に固まっていることが多いので、警察は、周辺の風紀を著しく乱しているとは考えていないようです。むしろ、性欲の捌け口があることで、凶悪な性犯罪の発生を減らす効果があると見ている。だから突然の手入は、まずやらないでしょう」
「あはは、ソープは治安に役立っているんだあ」
 風俗業界の存在意義を、お上が認めていることが、夏樹にはちょっとおかしかった。
「そうかも知れません。そしてヘルスですが、こっちの方は街中のビル街に散在しているので、本番有の通報などのタレコミがあれば、即手入もあるでしょうね」
「周辺の風紀を著しく乱しているから?」
「たぶんそうでしょう」
 笑いながら、なかなか利口な娘だと、東は夏樹に感心した。
「あの、デリヘルの場合ですけどぉ。お店は本番サービスは提供しないし、ただ一定の技術と能力を持つコンパニオンを派遣するだけですね? そして建前上は、コンパは所定のサービスを提供するだけ。でも本当の所、リコリスのコンパニオンの実態はどうなっているんでしょうか? あと、デリヘルに対する警察の手入なんかはあるんですか?」
 夏樹は東の目をじっと見てから、こう質問した。
 東はこの攻撃にちょっとたじろぎ、右手を何度か中途半端に握り直した。
 そして、胸ポケットからタバコを取り出し、
「一服してもいいかな?」と言った。
 夏樹は、「じゃあ、私も一本いいですか?」と言って、右の手の平を東の方へ差し出した。★
  
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

オリジナル長編小説「アミーカ」第5回(全42回)
※ストーリィ中に一部"性描写"がありますので"R-18"(=18歳未満お断り)とさせていただきます。尚、性描写は風俗の世界を描く上で必要最小限に抑えており、実体は友情をテーマとする物語です。

[前回までのあらすじ]
 高校3年生の夏樹は親子間の確執から家出独立を決意したがその為には資金が要る。18歳の誕生日にデリヘル事務所リコリスを訪ねた。
 リコリスに決めたのはミポリンというコンパニオンの自己紹介記事だった。事務所の奥のリビングへと案内される途中そのミポリンを見掛け失言してしまうが、持ち前のライバル心がむくむくと湧き上がる。
 面接担当者を待つ間、Yや恋人Rとの不完全なセックス経験が思い出され夏樹は自信喪失する。担当者の東店長は事前に社長の期待を感じ取っていたが、面接する内に夏樹の肉体以外の才能に気付き始める。




++++++++++これより本編+++++++++++



[ 東はこの攻撃にちょっとたじろぎ、右手を何度か中途半端に握り直した。
 そして、胸ポケットからタバコを取り出し、
「一服してもいいかな?」と言った。
 夏樹は、「じゃあ、私も一本いいですか?」と言って、右の手の平を東の方へ差し出した。★ ]
 東はちょっと意外な感じを受けたが、今時の女子高校生がタバコを吸うこと自体は、さして珍しいことでは無いことを思い出した。
「あ、君タバコ吸うんだ? はいどうぞ。今は良いけれど、お客様の目の前では、なるべく吸わないようにしてね」
「私、一人でタバコを吸う事は無いです。他人の吐き出す煙が臭いから自分も吸うだけです。お客の前では吸わないようにします」
 東はうんと頷いてからうまそうに一服し、夏樹のタバコを観察する。
(格好からすると、この娘はあまりタバコを吸い慣れてはいないようだ。反応もわかりやすい娘なんだが、実にしっかりしていて適当にあしらうことはできないな)
 東は夏樹を、かなり高く見積もり直していた。
「さっきの質問ですが。リコリスでは、個々のコンパニオンがお客様にどのような所定外サービスを提供しているかは詮索しておりません。この後で、リーダー格のコンパニオンを紹介しますから、その人に直接聴いてみるといいですよ」
 東はそう言ってから、こう続けた。
「あと警察の手入の方ですが。悪質な業者がコンパと手を組んで、お客様を恐喝するという手口で、刑事事件になって検挙されることは度々あります。でもああいうのは美人局であって、真っ当なデリヘルではありませんから。普通のデリヘルで手入というのは、最近はとんと聴いたことが無いですね」
 説明が終わると東はソファを離れた。
 インタフォンのボタンを押して、コーヒーを二つオーダーし、
「三十分後に、ミポリンをここへ寄越してくれないか」と言った。
 東は夏樹に向き直り、にこやかに一つ頷いてからソファに座り直した。
 仕切り直した東は、吸い掛けのたばこを丁寧に消してから、話を進めようとして夏樹の目を見た。
 夏樹も真剣な眼差しを向けた。
 その時、やっと東は気が付いた。先程の彼女の質問の鋭どさが、老練な自分をたじろがせた訳では無い事に……
 夏樹と正面から視線をからみ合わせる。ただそれだけのことで、その瞳の深みにぐいと引き込まれる感覚なのだ。意識せずに顔を見ている分には、並より明るいブラウンの色を持った瞳、ただそれだけに過ぎないのだが……
 東は、夏樹の全体を見るように注意を払い、もう一度消した筈のタバコを消し直した。
「夏樹さんは、さっきの質問からすると本番をしたくないと考えてるのですか? 一応リコリスでは、本番はありませんとコンパにもお客様に伝えていますが」
「別にしたいとか、したくないと云う訳じゃないです。私、はっきりしないことが嫌いなんです」
「なるほど。では話を先に進めましょう。
 先程私は、この仕事をすることは自立することだと申し上げました。実はそれは単に契約形態を意味しているだけではありません」
「はい」
「先ずリコリスにお客様から注文が入ります」
「はい」
「注文を受けたリコリスは、コンパニオンに派遣オーダーを出します」
「はい」
「お客様の指定時刻に到着するように、指定場所までリコリスの送迎スタッフがコンパをお送りします」
「はい」
「お仕事中は近辺でスタッフが待機しています」
「はい」夏樹は少し驚いた。(至れり尽くせりだ)
「終了予定時刻には送迎スタッフがお迎えに上がります。このように、不測の事態に備え、安全にはできる限り配慮しています」
「それなら安心ですね」
「ここから指定場所までの往復については、単独行動は原則的にありませんが、お客様指定のお部屋の中では、一時間ないし二時間の間、あなたはお客様と一対一、マンツーマンになるのです」
 東は、自分の言葉に対する夏樹の反応を確認する。
 夏樹は、
「ええ、そうですよね」と東を見詰めて、話の続きを待った。
 この時、東はまたも夏樹の真剣な眼差しに吸い込まれ掛けた。
 どぎまぎを隠して、東は一旦窓の方へ目をやる。目線を戻す時には、夏樹の全体を眺めるように注意した。
「お客様とのサービスに関する話し合いも、料金の収受も、あなたが直接行うことになります」
「はい」
「断らなければならないサービスもあるし、リピートが来るような満足も提供しなくてはならない。こうした事には相当の自立心と状況判断能力が必要になります。それはわかりますね?」
「ええ、なんとなく」
「あなたは明快な考え方をするようなので、その点では適性があると私は思います。ところで夏樹さん、年齢等を証明できるものをお持ちになられましたか?」
「あ、はい。このバイクの免許証でいいですか?」
 夏樹は学生証ではなく、十六の時親に内緒で取得した運転免許証を取り出した。高校は辞めようと思っていたからだ。
 東はその免許証を手に取り、誕生日を確認し、今日で十八歳になりましたねと笑った。
 夏樹もええと答えて笑う。
 東は夏樹の了解を得てから、デジカメで免許証の写真を撮影し、用済みとなった身分証を夏樹に返した。
「学生証も持って来てますか?」
「それって必要でしょうか? 一応持って来てはいますが、高校はもう退学しようと思っていますから」
 東は、またも虚を突かれた。
 夏樹には驚かされることが多い。
(社長が、この佐藤夏樹のどこに注目したのかはわからないが、この意外性が彼女の大きな魅力なのかも)と東は確信した。
「何か、学校で処分されるようなことをしたんですか?」
「あ、いえ、そんなことはありません」
「答えたくなければそれでも構わないのですが、何故高校を中退しようと?」
 退学理由について、目の前の男はかなり興味を持ったようだ。
 夏樹は、どうしようかとやや躊躇した。
「その理由については、関係の無い人には答えたくありません。でも、もしもこの場で、私の採用を決定してくれると言うならお答えします」
「ああ、とてもはっきりした気持ちの好い人ですね、あなたは。ううん、リコリスとしては夏樹さんのような方は大歓迎ですが、コンパニオンがお客様に提供する所定のサービスの内容とか、条件面などの話をしてからの方がよろしいでしょうね?」
 東の様子では、夏樹さえ働く意思があれば採用しようということらしい。
 夏樹は、面接の直前に気が付いた、仕事への適応性即ち性経験の少なさを、ここでまた思い出した。自然に大きな身が縮み、俯いてしまう。
 東はその変化を見逃さなかった。
「夏樹さん、始めもそんな感じでしたね。どうやら先ほども、緊張していたとか後悔していた訳じゃなさそうですね」
 夏樹は黙っていた。
「自信がありそうでいて、無さそうでもある。この仕事に対する不安を感じているんですか?」
「ええ。私、経験が少ないから……」
 夏樹の声は聞き取りにくい程小さい。
 なんだそんなことかと東は夏樹を覗き込む。そして力強く励ました。
「経験なんて、これからいくらでも積めますよ」
 夏樹は顔を上げた。
「要は性行為が好きか嫌いかです」
「はい」
「恋人でもない相手とするのだから、性行為が嫌いだったら話になりません。夏樹さんはHはお好きですか?」
 夏樹はやや頬を赤らめながら、その深い輝きを秘める瞳を正面の男に向けた。
 夏樹がそうしようとした訳ではなかったが、結果として、夏樹の瞳それ自体が、東の心をその深みへと引き擦り込んだ。
 夏樹の恥じらいがその磁力を一層強くし、声も少しハスキーになる。
「経験は少ないけど、Hは大好きです」
 心を絡め取られた男にとっては、それは魔性の響きだった。
 東は夏樹を見詰めたまま、放心状態で答えを聴いた。
 そこにタイミング良く、先程のOLが「失礼します」と言ってコーヒーを運んで来た。
「東さん、どうしちゃったんですか?」
 固まっている東に、そうOLが声を掛けると、東は漸く我に帰ることができた。
「ああ、ありがとう良子ちゃん」
 慌てたように東は言った。
 OLは少し首を捻ってからコーヒーセットを丁寧に置いた。
 彼女はドアを出る所で、確かにくすりと笑った。
 コーヒーにミルクを入れてから、一口啜る。
 口に広がるコーヒーの苦味……東は、自分のすべき仕事を思い出した。
 東は、夏樹の胸の辺りを見ながら話した。
 ライトグレーのノースリーブジャケットに隠された、豊かなバストが漠然と視界に入る。
 東の視線には、いやらしさのかけらも感じられなかったので、夏樹はそれが特に気にならなかった。
「やっぱり、ここに来る人でHが嫌いな人は居ないですね」
 夏樹は思わず笑った。
「だったら、そのような心配は無用です」
「はい」
「健康と体力は必要ですが、夏樹さんは、そのどちらも持ち合わせているようだ」
 夏樹は大きく頷いた。体力には自信がある。
「それではこれから、コンパニオンのサービス内容と報酬制度の説明をしますから、途中で疑問がありましたら何なりと質問して下さい」
 東は、所定のサービスメニューについて、用意した解説図面を夏樹に見せながら説明を開始する。
 夏樹はやや顔を赤らめながらも目を輝かせた。
 際どい一連の性行為が淡々と説明された……
「それぞれのサービステクニックについては訓練メニューが用意されていますので、全くの素人でも、一、二週間程度で一定のレベルを持つコンパに養成できますよ。
 次に、報酬制度の話に入りましょう。
 コンパニオンの報酬はポイント制になっていますが、少々複雑なので良く聴いて理解してくださいね。
 そのベースになるものが、コースごとに割り当てられるポイントです。先ずそのコースについて説明しましょう。
 お客様が選べるコースは、時間を基準として、ショートタイム、ミディアムタイム、ロングタイム、ベリーロングタイム、カスタムの五コースがあります。
 この内『カスタム』については、時間もサービスもフリーオーダーのことを云います。
 各コースには、その時間の長さに見合った、サービスメニューの組み合わせが『標準セット』されています。
 各コースのポイントは、ショートタイムが七点、ミディアムタイム十点、ロングタイム十五点、ベリーロングタイムは二十点になっています。これをベースポイントと云います。
 これに『追加オプション』のオーダーがあれば、そのポイントが加算されます。
 勿論、この追加オプションには『本番』の設定はありません。
 またいわゆる『現場オプション』については、各々のコンパニオンの裁量に任されています。
 コンパとお客様との合意により、コースの時間内にそのサービスが提供される限り、その内容と料金を含めてリコリスは一切関知しません。
 コンパニオンの報酬は、ベースポイントの合計点に、一点千円の単価を掛け合わせて計算されます。一例を挙げますと……
 六十分のミディアムタイムの派遣の場合、標準セットのみであればコンパの報酬はポイント十点で、1,000×10=10,000円と云う計算になります。
 当日出勤している状態を『入り』と云いまして、入りのコンパは、平均すると一日に三人を接客しています。
 その日の三客ともミディアムタイムで標準セット、オプション無しだったと仮定すると、合計ポイントは三十点で報酬は三万円になります。
 以上が報酬制度の基本です」
 東はそこで休み、夏樹を見た。
 元気を取り戻した夏樹は質問をぶつける。
「あの、リコリスのホームページの求人欄には確か、一日三万九千円以上になると書いてあったと思いますが? 違ってました?」
 東は、嬉しそうに大きく頷いて、この質問に答えた。★


++++++++以下次回へと続く+++++++++


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オリジナル長編小説「アミーカ」第6回(全42回)
※ストーリィ中に一部"性描写"がありますので"R-18"(=18歳未満お断り)とさせていただきます。尚、性描写は風俗の世界を描く上で必要最小限に抑えており、実体は友情をテーマとする物語です。

[前回までのあらすじ]
 高校3年生の夏樹は親子間の確執から家出独立を決意したがその為には資金が要る。18歳の誕生日にデリヘル事務所リコリスを訪ねた。
 リコリスに決めたのはミポリンというコンパニオンの自己紹介記事だった。事務所の奥のリビングへと案内される途中そのミポリンを見掛け失言してしまうが、持ち前のライバル心がむくむくと湧き上がる。
 面接担当者東店長は面接する内に夏樹の魅力に気付き始める。他方、仕事の流れ、報酬の仕組みなどの説明に夏樹は強い興味を示した。




++++++++++これより本編+++++++++++





 元気を取り戻した夏樹は質問をぶつける。
「あの、リコリスのホームページの求人欄には確か、一日三万九千円以上になると書いてあったと思いますが? 違ってました?」
 東は、嬉しそうに大きく頷いて、この質問に答えた。★
「そうです。確かにそう書いてありますね。大丈夫、十分その位にはなりますよ、夏樹さん」
 東は身を乗り出した。
「モデルケースに沿って稼動してもらえれば必ずそうなります。二勤一休か、一日置き出勤で、入りの日に三客取ると云うのがそれです。これがコンスタントに稼げてお勧めですね。まあそうは言っても、うちの勤務条件は自由ですから、モデルケースに従う必要は全くありませんよ」
 東は、そこで両手を広げて見せた。そして、その両手の指を祈るような形に組むと、そのままテーブルに肘を着いた。
「あそこにある、一日三万九千円以上と云うのはですね、こういうことです。先ず、前週に三日以上の『入り』してくれたコンパには、一点乃至二点をプラスします。この加点を『入り三手当て』と呼ぶ娘もいます」
「はい」
「さらにお客様がコンパニオンを指名した場合、指名料として一点プラス。また『送迎無し』の場合も一点プラスです」
 東は、込み入った話に夏樹がついて来ているかどうか確認しようと、その目をちらっと見てから、素早く視線を元通りバスト辺りに下げた。
 夏樹は、ちょっとバストを揺らしてみた。
 東は、慌てて視線を夏樹の口元辺りに上げた。
 肉付きの良い唇。小振りで良い形……それが突然大きく開いて上下に揺れた!
「あっはっはっはっは」
「夏樹さん!」
 東は、夏樹の目を見て怒って見せた。
 まだ夏樹は声を上げて笑っている。
「ごめんなさい。だって東さん、さっきから私と全然目を合わせないじゃないですか。だから、からかってみたくなっちゃった」
 いたずらっ子の目をして、夏樹が東の目を覗き込むと、
「大人をからかうもんじゃない」と言って、東は慌てて目を逸らした。
 それがおかしくて、また夏樹は笑った。
 笑顔が眩しい……東は少年のように照れて、瞬間的に二十年も前の初恋を思い出した。
 甘酸っぱい気分。次いで浮かんだのは、あの人の笑顔だった。
(あの人が、こんな心からの笑顔を取り戻すのは、一体いつになるのだろう?)
「東さん?」
 突然、淋しげにうなだれた東を見て、夏樹は急に責任を感じた。
「ごめんなさい。今度はちゃんと聴きますから」
「ああ、こちらこそごめん」と東は力無い顔を上げて、
「では説明を続けましょう」と続けた。
 夏樹は、お願いしますと頭を下げた。
 東は気を取り直した。
「送迎無しと云うのは、ドライバー付き社有車による送迎をしないということです」
「はい」
「この場合、電車、タクシーなどの移動費は実費を支給します」
「ええ」
「自動車運転免許があれば、ドライバー無しの社有車で、自分で運転していくこともできます。カーナビ装備ですから、道に不案内でも大丈夫ですよ」
「へえ」
「それから指名率の方ですが、毎週『入り三』をするコンパの場合で、平均で90%位になるでしょう」
「そんなに?」
「指名リピーターは安心度も高いので、送迎無しを選ぶコンパが多いのですが、その場合指名料と、送迎無しで、合わせて二点プラスになりますよね。だから、」
 ここで、夏樹は口を挟んだ。
「と云うことは、前週三日以上入っていたとすれば、ミディアムタイム標準セットの指名客なら先ずベースポイントで十点、入り三手当てが一点、指名ポイント一点、送迎無しポイント一点で合計十三点。それが三客だったらその三倍で三九点……一点千円だから三万九千円になりますね?」
「そう云う事です。素晴らしい!」
 東は上機嫌になると頭の上下の動きが大きくなる。
 先ほどまで顔だけで頷いていたのが、今は首の付け根から大きく頷いていることに夏樹は気が付いていた。

 夏樹はこのように観察力がある方である。
 特に変化を発見することが本能的に早い。
 しかし、分析を伴わない観察は、意味が無いと言っても良いだろう。
 観察力は、対象の変化を発見し、その変化を分析する力だ。
 その対象が人間である場合、葛藤という感情によって、対象が戸惑いという変化を見せることがある。そんな時、夏樹の観察力は全く機能しない。
 慈愛心に富む夏樹が、知らず知らず人を傷つけてしまうことがあるのは、未だに「葛藤」と云う感情を、良く理解できないことが原因だ。
 白は白、黒は黒、曖昧さの無いはっきりした性格。夏樹のこの性格が良い所でもあり、欠点にもなっている。
 うじうじするな! 好きか嫌いかはっきりしてよ! と云うのが夏樹である。夏樹は即断即決、走り出してから考える。
 こんな夏樹の性向は、テニスなどのスポーツや、武道などに対しては大いにプラスである。
 瞬間的な反応力に優れた野性的な夏樹のプレーは、あの高山理絵をも脅かしたことがある。

 夏樹は一年前の夏、スポーツセンターのテニスコートで、その人がインターハイチャンピオンの高山理絵だとも知らずに、無謀にも練習試合を申し込んだ。{テニスルールは巻末《詳註》参照}
 スリーセットマッチ。ファーストセットのファーストゲーム。
 いきなり、夏樹自慢のサーブがうなりを上げた!
 空間を切り裂くような剛球だ。
 センターマークから二歩右サイドライン寄りに立った夏樹を見て、ベースライン上右端で待ち構えていた理絵が一歩目の反応をする前に、そのボールはフォアコート(前側コート)右側ボックス(デュースサービスコート)の右手前隅でバウンドして、あっという間に右方向へクロス(対角方向)して抜けて行った。
 ワイド(センターに対し左右の広いサービスエリアへのサービスを云うが、レシーバー正面へのサービスはボディと云う)へのサービス攻撃を呆然と見送った理絵の目には、その弾道が鮮やかなまでに焼き付いた。
 二ポイント目のサーブは、アドサービスコート深く、*→
{[註]手前自分側コートは、後方の横長長方形をしたバックコートと、中央ネット寄りのやや広い長方形のフォアコートから成っており、フォアコートは縦線で左右のブロックに二分される。
 その右側をデュースサービスコートと呼び、左側をアドサービスコートと呼ぶ。
 ネットと平行するバックコートのエンドラインをベースラインと呼び、ベースラインの中央はセンターマークされている。
 サービスはベースライン後方から、ネット越しに相手のフォアコートを対角に狙って攻撃する。
 一ポイント目(奇数ポイント目)のサービスは、センターマーク右側に立ち、デュースサービスコート内へクロスして打ち込む。
 二ポイント目(偶数ポイント目)は、センターマーク左側に立ち、アドサービスコート内へクロスして打ち込む。三ポイント目(奇数ポイント目)は一ポイント目と同じ。以降順番に繰り返す}
←*先ほどとは反対側のサイドライン内側一杯に、同じ高速度で突き刺さり、準備不十分の理絵のはるか左側を抜いて行った。
 まるでさっきのシーンを左右逆転にしたビデオのように。
 ファーストセットのファーストゲームは、夏樹の四連続サービスエースによるストレートスコアであっさりと終わった。
 セカンドゲームで、エンドとサービスの交替(エンドまたはコートチェンジは、奇数回目ゲームが終了した時点で行われる)が行われ、理絵は夢遊病者の様にコートを反対側に移動した。
 頭の中には、今し方自分を襲った高速サービスのショートムービーがエンドレスで流れていた。特にバックサイドからのワイドコーナーへの高速サービス。それがショックだった。
 セカンドゲーム。力だけは目一杯入っていたが、理絵は何となくサービスを放っていた。訓練で身体に覚えこませたサービスは、正確でスピードも十分だった。しかしそれは、相手を見ながら計算して放つものでは無かったのだ。
 素直過ぎるサーブは悉く夏樹の格好の餌食となり、鮮やかなリターンエースによって粉砕された。その結果、絶対有利なサービスゲームをラブゲームで奪われた。
 サードゲームはまた夏樹のサービスゲームだ。
 エースこそ奪えなかったが、理絵の手数が一つ増えただけのワンサイドゲーム。
 そしてファーストセットが終わってみれば、六対〇のストレートで夏樹がチャンプ理絵を圧倒していた。
 第一セットのラストゲームが理絵のサービスだったから、セカンドセットファーストゲームは本来自分のサービスゲームに当るのだが、草テニスの気楽さから夏樹はサーブ権を相手に譲った。
 ボールを手にした理絵は、目を閉じて一つ深呼吸した。
 理絵のサービスは、相手の動きを計算したドライブのよく利いたものだ。そしてサーブ&ボレー……サーブから前方へダッシュして、ネットプレーに持ち込む。あるいは、敵方のリターンをベースラインセンターへ深く打ち返すアプローチショットから、前方中央部への進出。あらゆるボレーショット(振らずに当てて返す)をマスターしているから取れる戦術だろう。相手のネットプレーに対しては、高くて深いロビングでバックに追いやるか、パシングショットで横を抜くことができるが、ネットプレーで応戦する方をむしろ得意とした。
 フォアサイドからのサービスの為に、理絵はセンターマークのすぐ右側に立った。そしてスピードの乗ったスライスサーブを対角線上のワイドコーナーへ放つ。
 コーナー一杯でバウンドしたボールは、外側に大きく逃げるように滑って行く。
 しかし、夏樹のフットワークも素晴らしく、コート右外側でこれに追いつきフォアハンドで返す。
 ジャストミートのリターンはクロス方向へ飛ぶ。既に理絵はフォアコートやや左側で待っていた。
 右手を少し伸ばすだけで良かった。受け流すようなソフトなタッチで、右側への逆クロスショートボレー。
 ボールは、夏樹のバックサイドネット際近くへ着弾し、コート左外側に飛び去って行く。
 コート右後方から中央まで戻るのが精一杯だった夏樹は、遥か遠いボールにラケットを伸ばすことすらできなかった。
 理絵は眉一つ動かさず、ポジションをセンターマークの左側へ僅かに移動した。バックサイドに立っても、レシーバーへ向ける体の向きは殆ど変わらない。夏樹がバックサイドからのサービスで、背中を見せる程右を向いていたのとは大きな違いがある。
 水流の様に滑らかな体捌きから二本目のサーブ。これは対角浅いセンターコーナーを狙ったスライスだった。
 ベースライン左寄りに構えていた夏樹は、俊敏な右の動きでジャストミート。サーブ&ボレーで、理絵が夏樹の正面へダッシュして来るのが見えた。
 さっきと同じ様に、理絵は夏樹のバックサイドへ、大きな角度を付けて短いボレーショットを放った。
 懸命に左に戻った夏樹は、どうにかこれに追い付いた。理絵が夏樹の正面へ移動してくるのが見える。
 ワンバウンドのボールに飛び付いて、理絵のバックサイドへ精一杯のクロスロビングリターン。(ロビングとは、相手の後方を狙った高い打球を云い、体勢を整える時間を稼ぐのに有効)
 高さの不十分なボールに対し、理絵は左上へジャンプして腕を伸ばす。ラケットは軽く球に合わせた。
 ハイボレーされた打球は、ストレート(サイドラインに平行方向の打球)でパシング(ネットに接近した相手の左右どちらかのスペースを抜くこと)された。
 目で追う事しかできない。無人となった夏樹のフォアサイド(体の右側)深く、乾いた音を立ててボールは弾んだ。★


++++++++以下次回へと続く+++++++++



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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

オリジナル長編小説「アミーカ」第7回(全42回)
※ストーリィ中に一部"性描写"がありますので"R-18"(=18歳未満お断り)とさせていただきます。尚、性描写は風俗の世界を描く上で必要最小限に抑えており、実体は友情をテーマとする物語です。

[前回までのあらすじ]
 高校3年生の夏樹は親子間の確執から家出独立を決意したがその為には資金が要る。18歳の誕生日にデリヘル事務所リコリスを訪ねた。
 決め手はミポリンというコンパニオンの自己紹介記事だったが、面接前に彼女にニアミスし失言してしまう。
 面接担当者東店長は面接する内に夏樹の鋭い観察力に気付いたが、思い切りが良過ぎる夏樹には葛藤と云う感情が理解できず知らず知らず人を傷つける欠点があった。しかしテニスにおいてはその観察力や思い切りがプラスに作用し、持ち前の体力、競争心からインターハイチャンプ高山理絵と好勝負を演じた事もあった。




++++++++++これより本編+++++++++++



[ ハイボレーされた打球は、ストレート(サイドラインに平行方向の打球)でパシング(ネットに接近した相手の左右どちらかのスペースを抜くこと)された。
 目で追う事しかできない。無人となった夏樹のフォアサイド(体の右側)深く、乾いた音を立ててボールは弾んだ。★ ]
 三ポイント目、四ポイント目。理絵は一転して直球フラットサーブで押した。
 それは夏樹の深いリターン(第二打)を読み切って、三打目を深くストレートに打ち込み返すアプローチショットが狙いだった。
 追いつくだけで精一杯の夏樹の第四打は、ネット中央部で待ち構える理絵の格好の餌食にされた。
 小技、妙技が冴えて四ポイント連取。理絵は一ポイントも与えることなくファーストゲームを奪った。
 しかしセカンドゲームはエンドも交替して、夏樹のサービスゲームだ。気持ちは既に切り替わっている。
 夏樹渾身の強烈なサーブ……威力はあるが理絵のものと比べるとはるかに単調だ。百戦練磨の理絵は、この時までにそれを十分に見切っていた。
 そのサーブを理絵がストレートリターン。
 二ポイント目もストレートショットで連続リターンエース。
 理絵のジャストミートのリターンは、夏樹のサーブが鋭い分強烈だった。
 これまでに経験したことの無い、超高速リターンショットに対して手も足も出ない。今度は夏樹の方が崩れる番だった。
 ここからはまるで理絵のワンマンショー。
 あらゆるショットが披露され、夏樹は右に左に、理絵の意のままに揺さぶられる。
 理絵のサービスゲームでは、スライスサーブをメインにして、時折高速フラットサーブが織り交ぜられた。
 時にはファーストサーブをゆるいコントロールショットでフォールトさせ、セカンドで高速スライスサーブをコーナーやセンターに決めてくる。
 予測不能状態に陥った夏樹は、精神的にもダメージを負った。
 セカンドセットは〇対六のストレートで、きっちりとファーストセットのお返しになった。
 この時理絵の方では、余裕の勝利を確信していた。
 夏樹と理絵の形勢逆転には伏線があった。
 ファーストセット第一ゲーム……どこの誰ともわからぬ相手から見たことも無い鮮やかな高速サーブ。エースを立て続けに決められた。それはこの夏、二年生でインターハイを制したばかりの天才プレーヤー理絵にとってはこの上ない屈辱だった。
(誰? こいつは一体何者?)
 ただその疑問だけが頭の中を駆け巡った。
 第二ゲームの理絵は、呆然自失の状態にありながらも、チャンプのプライドから、相手のサーブにスピード負けしてなるものかと単にフラットサーブを強打した。
 コントロールもそれなりだったが、相手の動きを見る余裕は無く、ハードショットが大好きな夏樹の特徴にも気付かなかった。
 結果として、夏樹を益々調子づかせることになった。
 三ゲーム連取され、エンドを交替した所で、漸く理絵は自分を取り戻した。
(どうにか立て直さなくてはならない。〇対三と言ってもまだワンブレークダウンじゃないか)
 そして、その考え方をもう一歩踏み込んだ……良い勝負をしても勝たなくては意味が無い。三セットマッチなのだから、例え一セットやっても続く二セットを連取すれば勝てる。この相手に勝つにはそれしか無い。理絵は、ファーストセットの残りのサービスゲームに当る、第四ゲームと第六ゲームを最終的な勝利の為に捨てることにした。
 ファーストセット第四ゲーム。理絵のサービスはコントロール重視の安全運転。一転してラリーの応酬になった。
 夏樹のフォアの動きが悪い。
 遠いフォアに対しては身体が開く。その結果リターンはやや弱く、決まったようにクロスへ来る。身体は走った方向に流れ、切り替えしが悪く戻りが遅れる。
 しかしながら、そう思えたのも束の間だった。
 ラリーを続ける内に夏樹のフォアの動きが俄然良くなって来る。(こいつめ、ファイトの天才なの? 戦っている最中に悪い所、弱い所を修正して来るなんて)
 第五ゲームでは、夏樹の弾丸サーブの、出所と球筋とタイミングを計ることに専念した。
 ラストゲームとなるかも知れない第六ゲーム……バックサイドが強い夏樹の特徴は明らかだ。だから、さらにフォアを攻めてみる。確かに動きは良くなっていたが、ジャストミートを試みる余り、切り返しは相変わらず悪いことが再確認できた。
 戻りを焦るから切り返しでバランスを崩しているのだ。
 こうして分析に重きを置いた結果、ファーストセットは屈辱のストレート負けとなった。それでも理絵は遂に夏樹の弱点を探り当てたのだ……
 ラリーの後半では、遠いフォアに強弱を織り交ぜたショットを放つ。夏樹は、強いリターンで必ずクロスを責めてくる筈だ。
 コースが予想できればこんなに楽なことは無い。
 強打のストレートショットで抜いてもいいし、前に出てボレーで角度を付けて返してもいい。セカンドセットは理絵の描いたそのゲームプラン通り進んだのだ。
 セカンドセットをあれだけ振り回したのだから、サードセットの相手はフラフラの筈……これが理絵の勝利確信の理由だった。
 しかし、その目算は夏樹には通じなかった。夏樹の体力は並外れていたからだ。セカンド終了時の、肩で息する程の夏樹の疲労は、三分間のインターバルで驚異的に回復した。休憩など取るべきでは無かった。
 夏樹は夏樹で、サードセットで今度こそ決着を付けると心に誓い、勝利への執念を新たにしていたのである。おあつらえ向きに、ファイナルセット最初のサーブ権は、第二セットのお返しで夏樹に譲られた。
 互いの思惑が交錯する中で始まったファイナルセットは、夏樹が驚異的な粘りを見せた。
 夏樹はハンターの目をぎらぎらと輝かせて、理絵の動きを執拗に追った。そして硬軟織り交ぜた理絵のクセのあるショットを、瞬時の判断と身のこなしで拾い捲った。
 フォアは相変わらず揺さぶられたが、ジャストミートの強打に拘らず、次のプレーに繋げる粘り強いショットを心掛けた。
 理絵の作戦を分析して、次のプレーを予測する。
 それは意識的なものではなく、夏樹の本能がなせる業だ。言わば野生の勘だ。
 スポーツにおいては、夏樹の観察力は十分に機能していた。
 執念に燃える夏樹のバックサイドに少しでも甘い球が来れば、得意のダブルハンドのバックショットが爆発した。
 しかしそこまでだった。
 サーブの球筋は理絵にほぼ読まれていた。生命線のサーブを見切られた以上、いくら立ち直ったとはいえ、サービスゲームキープは簡単な事では無くなった。
 こうなっては勝負は明らかだった。サードセットは六対四、結局セットカウント二対一で理絵が順当に勝利した。
 数字の上では惜敗だったが、全体の流れから見ると夏樹の完敗だった。
 実は夏樹自身も、サーブのコースを読まれていることは気付いていた。しかしサーブの着地点を自由自在にコントロールすることは、その時の夏樹にはまだできなかったのだ。
 日々の練習を積み重ねて作り上げた、高度なバランスがとれたフォームのみが、あの高速サーブを生み出す。
 夏樹は、ワイドコーナーを狙う高速サーブ練習だけでフォームを作って来たし、今まではそれで十分だった。
 相手の読みを外してコースを変更しようとすれば、肝心のスピードを犠牲にしなければならなかったし、そんなサーブがこの相手に通用するとは思えなかった。
 しかしなんと言っても決定的なことは、二人の経験の差が大き過ぎたことだろう。
 なにしろ高山理絵はインターハイのトッププレーヤーだったのだから。
 愛好会の域を出ない弱小テニス部の練習だけで、始めから勝てる道理が無かったのだ。
 もしも夏樹が十分な実戦練習を積んだなら、理絵の強力なライバルになったかも知れない。しかし、この時二人はお互いに名乗らなかった。
(自分は井の中の蛙だった)
 自分より強いプレーヤーが、世の中にはいくらでもいる。そんなことさえ知らない愚か者だと、夏樹は自信喪失した。
 理絵の方では……
 ゲームの終わった後、あれが稲北高弱小テニス部の佐藤夏樹であると、コーチから告げられていた。
(近々公式大会の個人戦で、彼女がライバルとなって立ち向かって来る筈。それは来年春の選抜か、夏のインターハイか?)
 理絵は夏樹との再戦を覚悟し、楽しみにもしていたのである。

 話を元に戻せば、この時の東の変化は、夏樹にとってはわかりやすいもので、観察結果は東が上機嫌であるということだった。
 東が夏樹に対し、上機嫌に大きく頷いていたその時、
「失礼しまぁす」と言う声と共に、ファッションモデルの様な、長く美しい脚が半開きのドアからすうっと侵入して来た。
 美脚の持ち主は、青いチャイナドレスの女、ミポリンだった。
 その深いスリットは、自慢の脚を見せつける為のもの。またジャストフィットしたチャイナドレスは、美しいボディラインを強調する為のデザインなのである。
 さっきコーヒーを運んだOLはドアを閉めて行かなかったようで、ノックも無しに突如登場したミポリンに、東は仰天した。 
「何がそんなに素晴らしいの? 東さん」
 からかう様に、ミポリンは東の顔を覗き込んで問い掛けた。★



++++++++以下次章へと続く+++++++++

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

オリジナル長編小説「アミーカ」第8回(全42回)
※ストーリィ中に一部"性描写"がありますので"R-18"(=18歳未満お断り)とさせていただきます。尚、性描写は風俗の世界を描く上で必要最小限に抑えており、実体は友情をテーマとする物語です。


[前回までのあらすじ]
 高校3年生の夏樹は家族との確執から家出独立を決意したがその為には資金が要る。18歳の誕生日にデリヘル事務所リコリスを訪ねた。
 決め手はミポリンというコンパニオンの自己紹介記事だったが、面接前に彼女にニアミスし失言してしまう。
 面接担当者東店長は面接する内に夏樹の鋭い観察力に気付いたが、思い切りが良過ぎる夏樹には葛藤と云う感情が理解できず知らず知らず人を傷つける欠点があった。しかしテニスなどの勝負においてはその観察力や思い切りがプラスに作用し、持ち前の体力、競争心からインターハイチャンプ高山理絵と好勝負を演じた事もあった。それは1年前の夏のこと…フルセット僅差のゲームだったが、二人が名乗り合わなかった為敗れた夏樹は自信喪失し、理絵はコーチから対戦相手の名前を知らされ将来の再戦を楽しみにしていた。
 東店長の説明もほぼ終了し、彼に先ほど呼ばれたコンパニオンが面接部屋に入って来た。その素晴らしい美脚の持ち主はミポリンだった。




++++++++++これより本編+++++++++++





     四 ミポリン

 東は、開けていたジャケットのボタンを慌てて留め直し、ソファから立ち上がってミポリンに隣の席を勧めた。
「ああ、丁度よかった。今、この夏樹さんに一通りの説明が終わった所でね。先輩コンパニオンとして、君に質疑応答に参加してもらおうと思って来てもらったんだよ」
 取り繕うような東を、ミポリンはまだからかうように見ている。
「あなたも人が悪いですね」
 東は顔を少し赤らめ抗議がましくそう言った。そして顔を背けて、聞き取れない程の小声で、わかってるくせにと呟いた。
「じゃあいいわ。こちらの新人さんに訊いてみるから」
 みぽりんは東の反応に、ふふと笑ってから、夏樹に質問した。
「東さんは、一体何を喜んでいたの?」
 ミポリンは、勧められたシングルソファではなく、東の対面側ロングソファの方へ、夏樹から一人分のスペースを空けてふわりと腰掛けた。
 東の目が一瞬、スリットから覗くその美脚に注がれて、すっと左に視線を逃がす。
 するとそこには、ミニのプリーツスカートから伸びた、夏樹のぴちぴちと弾ける様な太腿があった。
 慌てて彼は視線を上げた。その目は心なしか泳いで見える。
「ええ、多分私を気に入ってくれたんじゃないかと思います。採用かも」
 夏樹は、ミポリンの美しい身のこなしに見惚れながら、そう答えて笑った。
 そして改めて、
「佐藤夏樹です、よろしくお願いします」と丁寧に挨拶した。
 ミポリンは、ダイニングキッチンの時と同じように、目をきらりと輝かせた。
「源氏名ミポリンの高山美穂よ、夏樹さん採用おめでとう」
 素晴らしく魅力的な声で、ミポリンは自己紹介をして祝福の言葉を掛けた。
「まだ夏樹さんには、最終的な意思確認はいただいてませんよ」
 東が口を挟む。
「だって、夏樹さん自身がお願いしますと言ってるのだから、東店長さえよければ決まりでしょう?」
 美穂が当然と云う顔をする。
「ええまあ…………それじゃあ採用という事で」東が答えた。
 何か妙だと夏樹は思った。
 東は書類ケースから契約書を取り出す。
「先程保留した、コンパの所定外サービスの実態については、ミポリンこと高山美穂さんに訊いてみて下さい。そしてこれが契約書ですが、どちらを先にしますか?」
「どちらでも、どうせ契約しますから」と夏樹が即答すると、
「では契約の方を先に済ませたいと思います。説明しましょう」と東は契約書を差し出した。
 契約書は簡単なもので、二つ折り見開きA3の紙に条文が十二条記載されている。
 夏樹はさっと目を通した。
 パソコンオンラインソフトなどの、長ったらしい使用許諾約款などを何度も読んでいる内に、要点を抑えるコツが知らず知らず身に付いていた。夏樹にはそれで十分だった。
「わかりました。ここにサインすれば良いですね」
「早いですね。サインした契約書はその時点から有効ですよ」
 怖そうに東が言う。
 美穂が、夏樹の目をじっと見詰める。初めて見せる、美穂の冷たいほど厳しい視線だ。
 夏樹は少なからずたじろいだ。
「東さんは良い人だと私も思うわ。でもね、人を信用しても、契約書だけはきちんと読まなくちゃだめだよ夏樹さん。後で酷い目にあうことだってあるんだから」
 恐る恐る夏樹が、
「一応全部読みました。難しい事も書いて無かったし」と言うと、美穂は、東の右手から素早くストップウオッチを奪って、夏樹に差し出した。
「ホント? それにしても早いわね、一分五一秒だよほら」
「えぇ! 計っていたんですか?」
 夏樹が思わず声を上げると、東は「リコリスの新記録です」と器用にウィンクして見せた。
「この業界は油断ならないよ。お客に隠し撮りされることだってあるし。この部屋にもほら、インタフォンにCCDカメラとマイク付いているし」と美穂が人差し指を向ける。
「あのインタフォン、なんかさっきから変な気がしてたんですけど、そうだったんですかぁ?」
 夏樹はびっくりして、インタフォンの所へ走り寄った。
「うわぁ、すっごぉい。こんなんで、ちゃんとモニターに写るんですか?」
 じろじろとインタフォンを調べる夏樹に、
「録画も録音もされている筈だよ」と美穂が追い討ちを掛ける。
「美穂さん!」
 驚いた東が嗜めた。
「良いじゃないの、本当なんだから」と、美穂は気に留める様子も無い。
「夏樹さん。これは、当社が強引な手法を使って契約させてないことを証明する為のものです。悪意はありませんから」
 美穂のあからさまな暴露に、たまらなくなって東は反論した。
 夏樹には、この二人の関係がちょっと不思議に思えた。
(ミポリンがコンパのリーダー格だから、東さんもかなり気を使っているのだろうか?)
「それは本当のことらしいけどね。何事にも用心するに越した事は無いのよ……この世の中は、親兄弟でも信用ならないことがあるんだからね。特に風俗の世界はなんでも有りだよ」
 話してる途中から美穂は遠い目線になった。
 その美穂を見る東の表情はどこか悲しい。
 夏樹は、そんな二人の様子を気にしつつも、契約書にサインして東に渡した。
 東はそのサインを確かめ、今時の子にしてはとても綺麗な字だと感心した。
 東は、美穂にそれを見せてから複写の紙を剥がし、二枚目を夏樹の控えとして差し出した。
 夏樹はまた違和感を覚えた。
 夏樹がそれをしまうと、東が美穂に言った。
「それではミポリン。コンパの立場から、現場の様子とか実態について、夏樹さんの質問に答えてあげて下さい」
 美穂は夏樹に向き直った。
「じゃあ夏樹さん。東店長のご指示ですから、現場のことは何でも訊いてね」
「私のことはナツキでいいですよ、美穂さん。あ、ミポリンて呼んだ方が良いですか?」
「仕事の際どい話の時はミポリンの方が答え易いかな。二人だけの時なら美穂でも良いよ。他の人が居る時はミポリンて呼んでね。他の娘もそう呼んでるから」
「はい」と嬉しそうに夏樹は返事した。
「私はしばらく出てますから。それにご心配なく。この先は録画録音をストップしておきます。モニタリングも致しませんからね」
 立ち上がりながらそう言って、東はインタフォンの横のボタンを押した。
 上部の小さなインジケーターが、緑から赤に変わる。どうやらCCDカメラなどは、インジケーターが緑色に点灯している時に作動しているようだ。
 東は美穂に会釈して出て行った。

「じゃあ先ず、こんなこと訊いても良いのかな? 美穂さんはおいくつですか?」
 夏樹は仕事よりも、今は美穂そのものに興味があった。
 美穂は、夏樹をじっくりと鑑定でもする様に見てから答えた。
「やっぱり二十歳には見えないかな。二五よ、秋には二六になる」
「あ、全然見えませんよぉ二五には。ただすっごく人生経験ありそうだし、東さんとも対等みたいだったし」
「人生経験なんて実年齢とはあまり関係無いものよ。十七、十八の時には人生経験十分だったよ私」
「何かあったんですか」
「今は言えないんだ。だけど、ナツキにはいずれ話せるような気がするよ」
 夏樹の問いが美穂の視線を遠くした。
 その横顔を見ている内に、美穂と自分がオーバーラップする。
 夏樹は、自分のこれまでを光速で顧みる…………そしてこの先どうなるのか? 自分で「答」を出せるものならば……
 その「答」を待つことは、夏樹にとっては苦しいことだった。夏樹は考えることを止めた。
 いつの間にか感慨にふける夏樹を、美穂が不思議そうに見詰めていた。
 夏樹はにこりと笑った。美穂は小首を傾げる。
「じゃあ、今度は仕事の話。リコリスの女の子達は本番をするんですか?」
「しない娘も結構居るよ」
 美穂はそこで夏樹の目をちらっと見た。
「する娘の場合でも、初めてのお客とは普通やらない。よっぽどオプション料くれるなら話は別だけど」
「お金の問題?」
「それは大事だよ。仕事なんだから只じゃダメ。リピートさせることも大事だし」
「それを断っても、お客が強引に迫って来たら?」
「そんな時は部屋を出てきちゃって良いよ。そんなのお客様じゃないから」
「リコリスにクレームが来ませんか?」
「うん、そんな客に限って色々言って来るらしいね」
 美穂は腕組みをする。
「でも、リコリスの経営者も、東店長もバカじゃないから騙されないよ。コンパに事情を確認して客に非があることがわかれば、リコリスから、もう二度とこの店に関係しないようにと、キツイお仕置きをしてくれる筈さ」
「へぇ! ホントに?」
 夏樹には意外な答えだった。
 美穂は夏樹をじっと見る。
「そうだよ。リコリスに取って一番大事なのは、継続的に稼いでくれるコンパだもん。一人一人のコンパを大事にしなかったら、他の娘も皆よそへ移籍しちゃうだろうね」
「ああ、なるほど!」
 美穂と夏樹の関係はいつの間にか、信頼できる講師とその生徒の関係になっていた。
「お客様はルールを守る限りにおいて、楽しいサービスを受けられるってこと。だから、本番するかしないかは、お金と気持ちを含めて、コンパとお客様の合意が必要なの」
「ああなるほど」
 夏樹はさっきと同じ相槌を打ち、次いで、そのお金のことを訊いた。
「本番は幾らになるんですか?」
「現場のオプションは、全てお客との相対交渉次第だから。アレは、コンパによって一番値段が違うオプションだね。本番と云う言葉は、あまり現場では使わないから『アレ』で済ませてる」
「アレね」夏樹が笑う。
「アレよ」美穂も笑った。
「ミポリンのアレっていくらですか?」
「ミポリンのアレは三万円」
「たっかぁあい!」
 思わず、夏樹は大きな声を上げた。
「そうでもないよ。トップ3はもっと高いのよ。浅香はサンゴ、由美のアレはサンパチだし、直子はずばりゴマルだよ」
「サンゴにサンパチ、ゴマル???」
「わからない?」
「三万五千円、三万八千円、五万円?」
「そうそう。良くわかってるじゃないの」
「サンパチって、ブティックでも使うから」
「平均的な娘はイチマル。または一枚とも云うけどね。相手を好きになっちゃうと、只でしちゃう娘もいる。色々だよ」
「じゃあ、ミポリンは一月どの位稼いでるの?」
「三ヶ月前までは、毎月リコリスの報酬だけで百万円。現場オプション入れたらその倍位になるかな? 目標の二百万達成したらその月はお休み」
 美穂は笑って夏樹の顔を見た。夏樹の反応を探るように。
 夏樹は、一桁違う数字に唖然として、斜め上の方を見てからため息を吐いた。
「すごい金額ですねぇ」
「ところでナツキは源氏名、何にする?」
「源氏名ですか?」
「芸名みたいなもの。本名って訳に行かないじゃない?」
「全然思い付きません」
「サトエリに似てるよね、あんた」
 夏樹はちょっと嬉しくなった。
 サトエリ=佐藤江梨子は、最近人気急上昇中のプロポーション抜群のTVタレントだ。
「じゃあ、エリコで良いかも。他にはリエなんてどうですか?」
「リエはナツキに似合わないと思う。江梨子にしときなよ」
 美穂はどういう訳か、リエの名前が嫌そうだった。
「じゃあ江梨子で」
「ナツキなら月二百万円位稼げるよ」
「ホントですか? そんなに必要ないけどな」
「今必要ない分は、取り敢えず貯金することだよ。お金は嘘吐かないって云うからね」
「そうですね」
 ここで夏樹は、気になったことを訊いた。
「さっき、三ヶ月前まではって言いませんでしたか?」
 美穂はまた、夏樹を鑑定するような目付きで答えた。
「最近の三ヶ月は戦略練ってたから。人材発掘。人材教育。そんなでミポリンの売り上げは急減して、トップ3から落ちたよ」
「私、美穂さんがここのトップに違いないって、ダイニングで見た時に思いました」
「それはありがとう。でもナツキ、いや江梨子ならすぐここのトップになれると思うよ。そんなに稼げるようになったら、ナツキとしてはどうする? 本当にやりたいことあるの?」
 美穂は夏樹を見詰めた。
「高校辞めて、家を出て、それからアパートを借りて自活したい。そしてダンススクールへ行って、服飾の勉強もしたいです。余ったお金は貯金する」
 夏樹はそこで思案した。
「でもよく考えてみると、ダンスも服飾も思いつきだったのかも知れないな。あたし、ホントは一体何をしたいんだろう?」★
  

++++++++以下次回へと続く+++++++++



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オリジナル長編小説「アミーカ」第9回(全42回)
※ストーリィ中に一部"性描写"がありますので"R-18"(=18歳未満お断り)とさせていただきます。尚、性描写は風俗の世界を描く上で必要最小限に抑えており、実体は友情をテーマとする物語です。


[前回までのあらすじ]
 高校3年生の夏樹は家族との確執から家出独立を決意したがその為には資金が要る。年齢制限をクリアする18歳の誕生日に、夏樹はデリヘル事務所リコリスを訪ねた。
 東店長の説明もほぼ終了し、実技現場での疑問に応答するため現役コンパニオンが面接部屋に入って来た。その素晴らしい美脚の持ち主はミポリンだった。彼女はコンパのリーダーみたいで、東も一目置いているようで二人の関係は夏樹から見て不思議だ。
 提示された契約書に素早く目を通し夏樹は躊躇無くサインするが、ミポリンこと美穂は人を信用しても契約書の内容はきちんと読まないといけないと注意する。風俗業界はお客も含めて油断できない世界だと警告するのだ。東が退室すると、夏樹は現場における本番のことを美穂に質問するが、逆に美穂はうんと稼げるようになったら何をしたいのかと問う。問われた夏樹は思案する…




++++++++++これより本編+++++++++++



[ 「高校辞めて、家を出て、それからアパートを借りて自活したい。そしてダンススクールへ行って、服飾の勉強もしたいです。余ったお金は貯金する」
 夏樹はそこで思案した。
「でもよく考えてみると、ダンスも服飾も思いつきだったのかも知れないな。あたし、ホントは一体何をしたいんだろう?」★ ]
 改めて考えてみて、家を出て自活すること以外には、ホントの目標がまだ無いことに夏樹は気がついた。
「高校は卒業しておいた方が良いよ。アパートの方も、良かったら私のマンションに来れば? 部屋一つ空いてるし」
「え、良いんですか? でも恋人とか来るでしょ?」
 美穂の思いがけない申し出に夏樹は正直驚いた。
 それは願っても無い話だったが……
「今の所恋人は居ないし、たぶん、これからも作らない。ある計画を達成するまではね」
 夏樹は大きく瞬きする。
「その計画も今は言えないけれど、その内ナツキにも聴いて貰えればいいな」
 美穂は、中空に誰かを思い描きながら話しているようだ。
「じゃあ、今は訊きません。その内教えてください」
「あんたと話してると、とても十八の子とは思えないな。ナツキも人生経験十分なんじゃないの?」
「ううん、どうなんだろ。忘れるようにしていることは……あ・る・か・も……その内美穂さんに相談するかもしれません」
「そうなんだ。やっぱりナツキにもあるんだね……所で、今日は家に帰るの?」
「実は家出するつもりで、スポーツバッグに必要なものを詰めこんで、駅のロッカーに置いてあるんです。今日泊まる所もまだ決まっていません。今あまりお金持って無いし」
「無計画だね。もっと計画的にならなくちゃダメだよ」
 美穂はちっちと立てた人差し指を左右に振った。
 夏樹は「はい」と頷く。
「今日から私の家に来ても良いよ。でもね、家は出るとしても、さっきも言ったように、あと残り少しなんだから、高校位は卒業しておいた方が絶対良いよ」
 美穂は、姉が妹を諭す様にそう言った。
 夏樹もできることならそうしたかった。
「家を出て、それで高校だけ行くなんて、そんな都合の好い事できっこないですよ」
「不可能なことは、実際にはあまりないんだ。不可能に見えることが多いだけなの」
 美穂は腕組みをしてそう主張した。
 目の前の夏樹を説教すると云うよりは、自分自身に言い聞かせているようでもある。
「でも、やっぱりどう考えても無理ですよ」
「私、これでも小さなお店、ブティックだけど、海浜幕張の方に持ってるのよ。そこで働いていることにすれば? 私に付いて、住み込みで服飾の勉強することになったって言えば良いよ」
「ウチの親が了解するかな?」
「私がその時に電話に出ても良いし、そうしなよ。説得は得意だよ、私」
「じゃあ、そうしてもらおうかな。今日初めて会って、そんなことまでしてもらえるなんて。私に、どうしてそこまで親切にしてくれるんですか? 美穂さん」
「ナツキに、特別なものをインスピレーションで感じたのさ。私がナツキに力を貸せば、ナツキも私に力を貸してくれそうな気がするし。私って計算高いのよ」
「ふうん。でもこんな私が、美穂さんの力になれるんですか?」
 ここでしばらく夏樹は、鼻に右手の人差し指を当てて考えた。そして声を潜めて美穂に訊いた。
「最近の三ヶ月間は、人材発掘とか、人材訓練をしていたんですよね? ううん、もしかして、美穂さんの計画って、このリコリスからの独立ですか?」
「うん、良い所突いているけれど惜しいかな」
 美穂は、夏樹の問い掛けに思わず噴出した。
 そして、しばらく満足の笑みで夏樹を眺めていた。
「さて」
 と言って美穂はソファを立つと、そのままドアに近寄ってインタフォンのボタンを押した。
 相手はOLのようだ。
「東さんに、話は大体済んだからって言って」
 間も無く東が戻って来た。

 東は、二人の顔を見比べるようにしてから、
「夏樹さん、疑問は解消しましたか?」と言った。
「ええ」
 と夏樹が答えると、謎めいた微笑を見せながら東が言った。
「じゃあ、いつから実技訓練に入りましょうか? 二時間一単位で、五単位の訓練がデビューまでに必要ですからね」
「私はいつからでも良いです」夏樹が答える。
「実技訓練の研修料は一単位に付き二万円、五単位で十万円になります」
 ちょっと意地悪そうに東は、夏樹の顔と手元の契約書を交互に見比べてそう宣言した。
「それってコンパになって、いただいた報酬の中から差し引きで返せば良いんですよね?」
「すごいじゃないの? それさっき見落とさずに読んだの?」
 美穂は、やっぱりねと云う様に東の顔を見た。
 東は目を丸くしている。
「ええ、報酬から差し引きなら、それで良いかもって思いました。コンパとして実働しなかった時は一括返済になると云うのが少し気になったけれど、やり通すつもりだから別に良いかなって」
「やるわね」
 美穂は夏樹に親指を立てて見せた。
 同じ仕草で夏樹は合図に答えた。
「こんな人は初めてです。さすがですね、美穂さん」
 東は、美穂の方を横目で見て言った。
 美穂は当然という素振りで頷いた。
 夏樹は、二人の関係に感じていた漠然とした違和感が突如明瞭になって思わず声を上げた。
「え?」
「ナツキにはばらしておくわ。私がリコリスの影の女経営者なの」
 夏樹は絶句する。
 美穂は反応を探るように恐る恐る訊いた。
「怒った?」
「いえ、びっくりしました。ホントに」
 騙されていたことに不思議と怒りは湧かなかった。夏樹は美穂に対してさらに強い興味を持った。
「社長、何故夏樹さんだけが特別なんですか?」
 東には美穂が考えていることがわからなかった。
 どうやら夏樹のことを、飛切り上玉のコンパと考えているだけではなさそうだと思い当たり、東は少し不安な表情をした。
 美穂にも東の不安が見えた。
「東さん、そのことは後でゆっくり説明するよ」
 夏樹が口を挟む。
「じゃあ、発掘とか訓練って、ここから独立する話じゃなくて、リコリスの経営に専念していたって云うことですか?」
「勿論よ。でも、新しい場を求めると云う意味では、独立と云う言葉は的外れではないかもね」
「社長! そこまではまだ」
 東は慌てて声を潜めるようにそう言った。
「社長はよして東さん。美穂でいいわよ。
 それからナツキは私が預かる。訓練も直接するわ」
「美穂さんが直にですか?」
「あとね、トップ3を、明日か明後日、私のマンションの方へ集合かけられる? 二時間だけでいいから」
「急ですね」
「ナツキを三人に鑑定させたいの」
 美穂がすっかり経営者の顔になってそう命じると、東も厳しい顔つきになった。
 二人の様子を伺いながらも、夏樹は「トップ3」という言葉に興味を持った。
(トップ3って、一体どんな女達なんだろう? それに鑑定ってなんの事?)
 夏樹持ち前の好奇心がむくむくと湧いて来た。
「では早速トップ3に連絡取って見ます」と言って、東が出て行こうとすると、美穂が
「五千円置いて行って」と呼び止めた。
「ああ」と東は頭を掻いて、財布から五千円札を取り出して美穂に渡した。
 不思議そうに夏樹が目で問うと、東は苦笑した。
「新人が面接に来た時にね。契約書を読み出してからサインしようとするまでの時間を計って、美穂さんといつも賭けをしてるんですよ。今回は美穂さんが三分以内に賭けたって訳です」
「時間計測は元々東さんの趣味なの。始めはその早さと、女の子の営業成績の相関性を調査するのが目的だったのよ。でも全体的にはあまり関係ないみたい」
 美穂は東をちらりと見て、夏樹に視線を移した。
 東も夏樹を見る。
「そうなんですよ。今は賭けだけの為に計測してます。賭けには成立条件があって、時間が早くても内容を理解していないとダメなんです。内容を理解しないですぐサインする子もいますからね」
 夏樹はへえと云う顔をした。
「夏樹さんの場合には、有料の実技訓練のことでそれをチェックできました。結果としては私の負けでしたが、面接の途中から今日は負けるなと正直覚悟してました」
 東は賭けに負けたのに、何故か嬉しそうな顔を見せた。
「トップ3は全員三分以内だったのよ、ナツキ」
 夏樹は、ますますトップ3のことが気になった。
 美穂は振り返って東にも声を掛ける。
「だから、私は時間計測には今でも効果が有ると思ってるのよ」
「だといいんですが」
 美穂のねぎらいの言葉に対し東は一礼した。
 そして夏樹に素早いウィンクを送って部屋を出て行った。★



++++++++以下次章へと続く+++++++++




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