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脳空間自由飛行
★メインはオリジナル小説(※著作権留保)の掲載... ★観月ありさ、宇多田ヒカル、マリア・シャラポワ、蒼井優、上戸彩、堀北真希、剛力彩芽、新垣結衣 ★小説の読みたい回を探すには「ブログ内検索」が便利!
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かづしげ

Author:かづしげ
★★★「君という光」連載中. 
★長編『アミーカ』 :"R18指定" 18歳になった夏樹は家出して風俗業界に飛び込んだ…
★長編『黒い美学』 :近未来SFアクション. on line RPGで大事件発生!
★短編『10年目の花火』
★長編『ドロップ』 :新人文学賞をめぐるミステリー



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オリジナル近未来SFアクション小説「黒い美学」近日連載開始!
 全42回で連載してまいりましたオリジナル風俗アドベンチャー小説「アミーカ」は、8/28火曜日に最終回を迎え無事連載完了いたしました。

 あの作品は数年前に私が初めて最後まで書き上げた小説でした。少しだけ期待していたコメントも無く、どの位の読者がいたのか私には知る由もありませんが、全く0と云うことも無いだろうと信じております(笑) 実を言えばタレント写真掲載も私の趣味ではありますが、少しでもこのブログへ足を運ぶ人を増やそうという苦肉の方策なのですよ(笑) 小説に興味ある人とタレント写真に興味ある人がかぶる可能性を冷静に考えれば無駄な苦心なのかも知れませんが、単なるテキストの羅列だけでは如何にも寂し過ぎて、自分ですらブログを眺める気力が萎えてしまいそうです(笑)
 さてそんな告白はこの辺でお仕舞いにして、次回作を告知申し上げます……
 近日、近未来SFアクション小説「黒い美学」を全28回で連載開始いたしますので、あなたが是非私の作品の読者の一人になっていただけますよう期待し、お願い申し上げます。
 本作は筆者のセカンドノベルですが、構成とスピーディな展開およびアクション表現には密かな自信を持っております。もちろんストーリィも楽しんでいただけるものと確信しておりますのでご期待下さい!


【記事検索のヒント】
 『例:第■回の記事を見つけたい』→左の列にある≪ブログ内検索≫に、”「黒い美学」第■回”と入力し、検索ボタンを押します。めんどくさければ第■回だけでもOK。この時には他の小説の第■回も同時に検索結果として出て来るかも知れません。



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テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

オリジナル近未来SFアクション小説「黒い美学」第1回ー長編全28回
 さて本日から星野一(ほしの・はじめ)セカンドノベル「黒い美学」を連載開始いたします。SFといってもゲーム感覚で読み進めていただければと思います。近未来の日本ですし、アクション小説を読む感じで楽しんでいただければ幸いです。


【記事検索のヒント】
 『例:第1回の記事を見つけたい』→左の列にある≪ブログ内検索≫に、”「黒い美学」第1回”と入力し、検索ボタンを押します。めんどくさければ第1回だけでもOK。この時には他の小説の第1回も同時に検索結果として出て来るかも知れません。



++++++++++これより本編+++++++++++






      「黒い美学」

                         星野 一









     プロローグ

 二〇二〇年……この年、遂にサルの大脳を利用したスーパーバイオコンピュータが完成し実用化された。バイオコンピュータに「スーパー」と云う文字が冠せられる程のものが実現した背景には、いくつかの偶然が時系列的に重なる奇跡があったのである。
 偶然の一つは、一匹の天才ボノボ(ピグミーチンパンジー)の出現である。
 二つ目は、類人猿大脳組織活性化保存技術の飛躍的発展であるが、これは科学の発展を考えれば偶然性よりも必然性の方が高いと言えるかもしれない。
 そして三つ目は、細々と進められていたバイオコンピュータの研究分野が、「スペースウォーズ防衛計画」と云う名称の米国新防衛計画に織り込まれ、大予算化が実現したことである。このタイミングが後五年遅くても、また五年早過ぎたとしても、スーパーバイオコンピュータの誕生には次のチャンスまで少なくとも半世紀以上を要したことだろう。
 また、スーパーバイオコンピュータの実用化に当たって必要不可欠な関連技術も、その直前に完成していた。チンパンジーの幼児から取り出した大脳と組み合わせる為の「人工臓器」と「人工四肢」である。
 「神経系統の接続技術」と、「大脳のアナデジ混合信号を、アナログ信号とデジタル信号に分離変換する技術」については、無論のこと見逃してはならない。何故ならそれこそが、バイオコンピュータの根幹技術の一つなのだから。この有機的結合により大脳の指令で四肢が動き、脳幹で臓器の情報をフィードバックさせ、生命を自らの意思で維持することができるのだ。
 消化器系の仕組みを簡略化する為に、栄養の摂取は自然食物からではなく、高機能栄養液のパックを利用する。このパックを自らの四肢を操り、人工の口腔に取り込み、人工臓器で分解し、動力エネルギーを取り出し、また、大脳組織維持に必要不可欠の物質を合成し吸収する。そして毒素老廃物の濾過循環を行った上で、残った不要物質は人工肛門から排泄する。
 バイオコンピュータ実用化初期段階の考え方では、生体組織活動をできるだけ忠実に模すると云う立場を取っていたので、これらは全て、短期間で大脳組織を成長させる為に必要な仕組みだったのである。
 このシステムで唯一のネックが人工ではない大脳だったが、サル大脳組織活性化保存技術の飛躍的発展により、長期間安定を保つことが可能になったのだ。
 そしてこの頃、大脳促成教育プログラムも急速度で完成に近づいていた。

 さて、スーパーバイオコンピュータ誕生年の十年前に当る二〇一〇年、この年世界を騒がせた人語を理解する類人猿ボノボ、トミーについては、多くの人がまだ記憶に留めていることだろう。その後の彼に関する研究は秘密裏に進められていたが、トミーは学力を上げ続け、理数系の分野においては遂に小学生高学年の知能レベルにまで達していた。
 サルの大脳を利用したバイオコンピュータの研究は、前述のように相当程度進んでいたが、インターフェイスを音声人語とするに当って、曖昧な命令を理解し高速度で実行すると云う命題に対しては、普通のサル脳では明らかにポテンシャルが不足していた。
 一説には、極秘で死刑囚の人脳を使った実験が行われ、その成功例があるとも言われている。しかし人脳利用は明らかに違法であり、公表された実験記録など一切ある筈が無かった。
 トミーの加齢が進み遂に重体に陥ると、かねての計画に従って、トミーは極秘施設に移送され、生きたまま解剖に付されることになった。この時を待ち続けていたスーパーバイオコンピュータのプロジェクトチームが、トミー大脳をシステムに組み込む為極秘施設に召集されたのだ。このチームには人脳移植実験を推進したと噂される、某国の天才科学者と天才脳外科医も加わっていた。
 トミーの大脳は、天才脳外科医の手により完璧な状態で生体内から取り出された。
 その大脳組織は細心の注意を払って、大脳組織活性化保存技術により新開発された、高機能生理食塩水に保存され、栄養を与えられ続け、活動水準を高レベルに保持したまま次の移植先を待った。
 そしていよいよ、トミーの為に用意されたコンピュータ群が、アナデジ変換回路とそのセンターを介して接続される。脳神経とセンターユニットの接続は、ゴッドハンドと呼ばれる医師の手で完璧に行われた……スーパーバイオコンピュータ誕生の瞬間である。
 またトミーの身体からは、DNAと再生に適した細胞が大量に採取され、その細胞培養によって大量のトミーがコピーされ、その大脳を取り出す目的だけの為に育成された。その為のDNAクローン培養などの再生技術は既に確立していたのだ。
 スーパーバイオコンピュータは、アメリカの「スペースウォーズ防衛計画」に配備された。それは一説にトミー脳ではなく、人脳を利用した「ウルトラスーパータイプ」だとも言われているが、その真偽は定かではない。とにかくそれまで絵空事に過ぎず、絶対不可能とされていたスペースウォーズ防衛計画は、中核システムのスーパーバイオコンピュータが完成したことにより、現実として機能し始めたのである。

 二〇三〇年が明けた頃……日本では古く二〇〇〇年十一月に成立した、クローン人間を生み出すことを禁止する「ヒトクローン技術規制法」の再改定問題が前々年より審議されて来たが、同様の規制法を持つ英国、フランス、ドイツなどで、ヒト遺伝子を組み込んだサル脳および類人猿脳の改造などには、この規正法を当面適用しないことが決まると、国際競争力の低下を恐れた関係各方面から様々な圧力がかかり、審議会は規正法強化の無期限見送りを政府に答申せざるを得なかった。その結果を受けて、政府は直ちに英仏独と同様の措置を取ることにした。アメリカが突出して研究開発が進んでいる現状を憂慮した学会、産業界、その支持を受けた国会議員などが世論をリードして、少数派の倫理的な意見はかき消されてしまったのだ。
 アメリカのスペースウォーズ防衛計画で、スーパーバイオコンピュータの分野において、日本の技術協力が果たした役割はかなり大きなものがあった。
 日本のチームが「ウルトラスーパータイプ」の実用化に当たって、中心的役割を負っていたという噂話は、あながち信憑性の低いものではなかったのだ。そのせいかどうかは不明だが、日本はアメリカから相当量単位のトミー細胞を早期段階で優先的に譲渡され、それを元に着々と研究を進めていた。
 その成果として「ヒトクローン技術規制法」の再改定問題が決着するのを見越していた様に、時を置かず日本でもトミー細胞を増殖培養してトミー大脳のクローンが大量生産された。
 ヒト遺伝子を組み込んだ「改造型ウルトラスーパータイプ」が実用化されたのも、同年の二〇三〇年である。

 ビジネス用途を皮切りに、翌二〇三一年には「パーソナルトミー」と銘打たれた家庭型も発売された。
 ハードの普及スピードを優先する為に、アメリカと日本がEUに対し無償技術供与すると云う、思い切った政策を採用した。ハードの赤字はソフトの売上で回収しようと云う、かつてのゲーム機戦争で勝利したM社の戦略を国家間レベルで踏襲したのである。
 アメリカと日本で生産販売する民間のコンピュータメーカーには、日米両国の資本参加と技術供与もあった。そのM社から出向した技術者達が、スーパーバイオコンピュータ開発の中心グループだったこと、それが厚遇された理由であり、その処置に対する表立った抵抗は無かった。
 米国が主導して、無償技術供与する相手国をさらに拡大して行くと、中国、インドおよび中東、アフリカの諸国から直ちに批判の火の手が上がった。アメリカは「スペースウォーズ防衛計画」の次の戦略として、米国流人気ゲームソフトの普及を通じて世界をアメリカ化しようと企んでいると言うのである。しかし、その批判は間も無く収まった。彼等流のソフトを開発して普及させれば、アメリカと同じことができる筈だと彼等自身が気が付いたからである。
 なにはともあれ、既に家庭に普及していた高性能パソコンと比べてサイズも価格も大だったが、「パーソナルトミー」は、その圧倒的計算能力と、使い易いインターフェイス及びエンタテインメント拡張性能が支持されて、発売後僅か二年間で先進主要国の各家庭に一台の割合で普及するようになった。






++++++++以下第1章「江戸川台小学校」へと続く+++++++++




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オリジナル近未来SFアクション小説「黒い美学」第2回ー長編全28回
[前回までのあらすじ]
 プロローグについては"あらすじ"にできないので省略しますが、本編を楽しむ為には必要な記述ですのでプロローグを飛ばして読むのはお勧めできません。



++++++++++これより本編+++++++++++





     第一章 江戸川台小学校

 二〇三三年の東京都江戸川区……
 千葉県との県境に当る江戸川周辺は、自治体と民間ディベロッパーの協力により、水辺の超大型公園などを総合的に美しく整備したお陰で、リバーサイドビューを生かした高層のアパートメント群が立ち並び、かつての下町情緒とは打って変わって高級住宅地化していた。
 一方で、リバーサイドから少し離れた地域には、二〇〇〇年代初頭から二〇一〇年代に掛けて建てられた一軒家の二階建て住宅もまだ数多く残っていて、そこいら辺りまで足を伸ばせば、懐かしき下町の残り香をまだいくらか楽しむことができる。
 区立江戸川台小学校は、リバーサイド地区と低層住宅地域にまたがって立地している。

 七月二日、江戸川台小学校……
 いつもの様に午前中で授業が終わると、クラス仲間が小学CAFEに集まって来た。
 小学CAFEは、児童が交流する場としての広場の機能と、各テーブルに設置されたパソコンシステムなどによる自習室の機能を併せ持つ、低カロリーで安全な軽食を提供する施設である。内装はクリームイエローの色調で統一され、天井も高く落ち着きがあり常に清潔である為、児童達の家庭からは大変好評だ。ここでは児童の自主性を重んじる為、利用方法に対する管理やルールは非常に緩く、利用者である児童自体の受けも良い。
 小学CAFEには二宮タケルと山田ヒロシの顔も見える。
 彼等は同じ五年三組のクラスメートだ。二〇二〇年代前半、親が子にカタカナ名を付けることが流行っていた。二宮タケルはスポーツ万能、小五平均より身体はやや大き目で、勇気があり思いやりがある為、クラスのヒーロー的存在だ。もう一人の山田ヒロシは平均より小柄で、勉強が良くでき、スポーツも交友関係もそつなくこなす優等生タイプの少年である。
「タケル君、午後はどうする? リアルで遊ぶ?」
 ヒロシは負けず嫌いのタケルが、今日はオンラインで遊ぶと言うに違いないと予測した。
「ヒロシ、今日もオンラインで行こうぜ。昨日のショックならもう平気さ。今日はあいつらに落とし前を付ける」
「じゃあそうしよう! ボク二時にアクセスするよ」
「うん、じゃあ二時にな」
 二人はカップに残ったカフェインコントロールアイスコーヒーを飲み切り、小学CAFEのゲートを出た。
 ゲートと二人の少年のICリングが自動交信……
《2033.07.02.13:12下校、生徒NO.2029100187二宮タケル、CAFE:DCCIC*1,TOTAL150、定員一名型タクシー手配》
《2033.07.02.13:12下校、生徒NO.2029100292山田ヒロシ、CAFE:DCCIC*1,TOTAL150、定員一名型タクシー手配》

 学校の校門前タクシープールには、既に二台のオートモビルが二人を迎えに来ていた。
 二宮タケルが先にスクールゲートを出ると、イエローキャブが前に出てドアを開く。乗り込んだタケルはヒロシに手を振った。タケルがOKと言うと、イエローキャブはドアを閉じ音も無く発進し、後ろに付けていたブルーキャブが一台分前に詰めた。
 タケルを見送ったヒロシも続いてスクールゲートを出る。それに合わせてブルーキャブがドアを開ける。ヒロシは黙って乗り込んだ。ブルーキャブから確認の音声が流れる。
「山田ヒロシ様。目的地はご自宅の、江戸川区水辺3-8-2-5-12305でよろしいでしょうか?」
「よろしくね」とヒロシが答えると、ブルーキャブは「出発いたします」と言って、ドアを閉じ目的地に向けて発進した。

 時速四十キロ、オートドライブによるドアツードア。殆どの人がこのオートモビルタクシーを使用するので、利用料金の格安・定額制が実現し、自動車事故も通勤通学途上の刑事事件も殆ど無くなった。スポーツ走行を楽しみたい人達には、多くのレースと練習コースが用意され、自動車の宅配サービスが格安料金で利用できる。一般道路において人が運転する車は、緊急車両に制限され、個人に対しては、歩道を徒歩か自転車走行することだけが許されていた。

 イエローキャブが低層住宅地域に入り、走行スピードを半分に落す。次の角に接近した所でキャブは滑らかに減速停止。直前にアラームとアナウンスがあった。
「自転車が二台接近、一時停止します」
 目の前の右角から赤いヘルメットライダーのMTBが、キュキュっとブレーキ音を響かせながら、タケルのキャブの左側を高速で通過して行った。一車身差で黒ヘルライダーのMTBが続く。二人の少年は狭い公道で競争しているようだ。彼らのMTBは二台共九十年代に流行ったクラシカルなデザインで、当時のトップアスリート達のオリジナルカラーリングが施された高級車だった。
「あいつら、リバーサイドの中学生達だな。川辺のサイクリングロードで走ればいいのに」
 タケルはそう呟いたが、その目には幾分かのうらやみが浮かんでいる。
「先週、この近くで自転車と歩行者の間で人身事故が発生しています。自転車走行時はくれぐれも歩行者の安全にご注意下さい」
 キャブはこうアナウンスして発車した。
 双方の接近時に、キャブとMTBライダーのICリングとの間で自動交信されていたのである。事故はこうして未然に避けられる。あの少年ライダー達も、ゴーグルからキャブの位置情報を受け取っていたようだ。それでもICリングを付け忘れた歩行者と自転車の間で交通事故が時折発生する。

 間も無くキャブは、そのボディカラーと同色の外壁が印象的な、二階建て住宅の前に停車した。
 広くはないが良く手入の行き届いた緑の芝生が、夏の日差しをきらきらと反射して水に濡れているように見える。去年塗り替えたハウス外壁のマンダリンイエローと、ビロードのような高麗芝のグリーンが美しい対比をなしている。
 その庭には住宅のミニチュア模型の様なケンネルが置いてあり、その中から柴犬が嬉しそうに飛び出して来た。タケルの愛犬タロウである。
 その尻尾は千切れそうなほど激しく振られ、お帰りなさいの挨拶なのか頻りにワンワンと吼える。
 キャブを降りて門扉を押し開け、タケルは諦めた様にタロウに近づいた。その首を抱くようにして頭と背中を撫でてやると、漸く鳴き声はクィーンと甘える感じに変わった。
 タケルの家は二〇〇〇年代初頭に建てられた木製のツーバイフォーである。小さな庭が付いた狭い土地一杯に建てられている。それは周辺の住宅事情も似たようなものだ。
 それでもタケルはこの家がとても気に入っている。リバーサイドの高層マンションよりよっぽど良い。
 週末には父親と二人で芝刈りするが、これが結構楽しいのだ。
 その芝庭はゴルフのパターグリーンに見立てられているのか、カップが所々に切られている。くれぐれも躓かないように注意しなければならない。
 タケルは一度この穴に引っ掛かり、危うく足首を捻挫しそうになったことがある。
 父親の方は実際に捻挫したことがあり、その時初めて危険を認識して、カップの数を思い切って半分に減らしたのだ。それでもカップはまだ三つも残っている。
 タロウが愛撫に満足すると、タケルは小走りに玄関前に立った。ICリングとの交信で個人認証を終えたオートドアが開くと、タケルはそれを待ち切れなかったという感じで、玄関を風の様に通り抜け、父と共用する学習室兼事務室兼書斎へ入り、パーソナルトミー略してトミーの前に座った。

「トミー、ただいま」
 タケルは座り心地の良い、ネットサスペンションチェアに深く腰掛け直す。目の前の視野一八〇度に広がる大スクリーン(直径二メートル、長さ二メートルのパイプを縦に真っ二つにしたようなものを想像して欲しい)に、思慮深気なチンパンジーが現れた。
「お帰りなさいタケル君。今日は早いね」
「うん、『星夜の誓』に二時に入るから、その準備をしようと思ってね」
「なるほど。ヒロシ君も二時に来るの?」
 チンパンジーのトミーは、右手のタクトで壁をトンと叩いて壁紙を『星夜の誓』に変更した。
「そうさ。だから二組の奴らに負けないように、パーツを揃えておこうと思ってるんだ」
「プロテクターを強化する? それとも火器? 剣?」
 タケルは腕組みをしてちょっと考えた。
「火器を強化したい所だけど、この前急所一発でやられたからプロテクターだなやっぱり」
「ではプロテクターショップへ行こう」
 タケルはチェアの肘掛に両手を置いてボタンを押す。するとタケルの手首にリストバンドが自動的に装着され、少し手首を圧迫された。しかしその加圧からはほんの二秒で解放された。毎度の事ながらその瞬間だけは少し緊張するが、減圧されると同時に落ち着いて来るのがわかる。タケルは微笑んだ。
「血圧、パルス共に正常。ヘッドギアも装着する?」
 白衣のトミーがそう言った。
「頼むよ、トミー」
 天井からするするとヘッドギアが降りて来た。タケルはそれを頭に合わせ、軽くストラップを締めた。間も無く「α波、β波、δ波等の脳波について特に異常は認められない」とトミーが測定結果を報告。リストバンドもヘッドギアもワイヤーレスで、床に引かれた直径二メートルの円を底面とする円柱空間内で交信有効。超迫力のマルチチャネル立体音響と、マルチチャネルバイブによるリアルな振動はそのスペース内でのみ再現され、空間外ではほぼ無音無振動の住環境に優しいシステムである。また不完全ながら、嗅覚刺激信号で香り・匂いまで再現可能だ。
 やがて目の前に古びた木製の大きなドアが現れ、地下室に篭ったカビ臭が鼻を突いた。
 扉を押し開けるとギギィーっと軋み音が響き渡り、タケルがその部屋に足を踏み入れた途端、つかつかと床を打ち鳴らす自分の靴音が閉鎖された空間でやけに大きく反響した。
 全てはリンクする巨大映像と、リアルな音響システムおよびトミーの脳波刺激パルスの助けを借りて、タケルが自己脳内に再現した虚像の3D空間での出来事である。
 次のことはユーザー全てが行う必要は無いのだが、パーソナルトミーは、事前に視聴覚および嗅覚、触覚、味覚、加速度知覚、平衡感覚などを再現テストして、脳波刺激パルスを微調整し登録することにより、殆どのユーザーに対し同じ体感を共有させることを可能にしているようだ。
 ゲームのスタート直後は感覚がまだ慣れないせいか、タケルはややそのリアル過ぎる疑似体験に気圧されていた。
「強化アラミドのヘルメットとファイティングスーツは、合計で一五〇ゼニー。購入後の所持金残高は九〇になります」
 そう話し掛けたのは、タケルの横に従者然とはべる古風な服装のトミーだった。
 上から下まで鋲打ちの重ね厚皮製の戦闘服を着用した、戦士タケルがそれに応答する。
「九〇だときびしいかな。このレザーのヘルメットとファイティングスーツを売るといくら?」
「二つ合計で四五ゼニーになりますな。よって売却後の残金は一三五ゼニーでございまする」
 トミーの場にふさわしい言葉遣いが、徐々にタケルをその気にさせて行く。
「では売るか。一〇〇は残しておかねばならぬゆえ……三五ゼニーで、強化アラミドのアーム&レッグ・プロテクターセットを買えぬものだろうかのう?」
「そのセットは五〇ゼニーですな。買い入れますには、百を確保するとすれば十五ゼニーの不足となりますが……おお只今、クリントことヒロシ殿がこのショップに見えたようです。彼に不足分の借金を申し込まれたらいかがでしょう?」
 ドアの軋み音と高い靴音が再び響き渡った。
「早いね」
 振り返ったタケルが、自分と同じ様なレザーの戦闘服で身を固めた男に言った。
「タケル君だって」
 そう返事した男のレザーヘッドから、凛々しい少年の目が覗いている。
「タケルって呼ぶなよ、しらけるから。ここでは俺はアントン。ヒロシはクリントだろ。ところでクリント、十五ゼニーほど貸してくれぬか。あの強化アラミドのアーム&レッグ・プロテクターセットが欲しいのだが、所持金が少し足りないのだ」
「アントン、もうおぬしには四〇の貸しがあるではないか。おぬしに貸すと、ボクこのレザースーツで我慢しなくちゃならない」
 クリントことヒロシは、自分のキズがあるレザースーツを指差した。
 アントンことタケルは、自分のキズだらけのレザースーツと見比べて、クリントの防具はまだまだ使えるだろうと指摘し、ヒロシのことは守ってやるからさあと言った。
 クリントは首をすくめ、皮の銭袋を取り出した。
「しょうがないなあ。はい十五ゼニー。全部で五五の貸しだよ」
「サンキュ。その代わりショットガンを上げるよ」
 アントンは従者トミーよりショットガンを片手で受け取ると、それをクリントに差し出した。
「え いいの? これ欲しかったんだ。確か一〇〇ゼニーもする奴だよ」
 クリントはずしりと重いショットガンを両手に受け取り、いとしそうに頬擦りした。
「五五ゼニー返して、四五ゼニーの貸しだね」
 アントンは満足げな様子のクリントにそう言ってみた。
「買いは一〇〇だけど、売りは半分の五〇にしかならないよ」
 クリントはさすがにしっかりしていた。
 アントンはちぇと言ってさらに交渉する。
「だったら五五ゼニーの借りをちゃらにして」
「それならOK」クリントヒロシはにっと笑った。
「商談成立!」アントンタケルも親指を立てた。
「あのステージに出るのは二時半にしない? ボク、ショットガンの練習して行くから」
 ショットガンを右手で撫でながらヒロシはそう言った。
「おう二時半に」
 そうタケルが答えると、ヒロシはショットガンを片手に、従者と共に防具ショップを出て行った。
「奴は冷やかしかい。おまえさんは買うつもりがあるのかね?」
 それまで黙っていた防具屋の店主が、タケルに無愛想な声を掛けた。この店主もトミーと似たような、使い古した毛皮で作った古風な服装である。★


++++++++以下次回へと続く+++++++++



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オリジナル近未来SFアクション小説「黒い美学」第3回ー長編全28回

[前回までのあらすじ]
 2033年7/2江戸川台小学校5年3組の親友、二宮タケルと山田ヒロシの二人は下校前にオンラインRPGゲーム『聖夜の誓』で遊ぶことを約束して別れた。帰宅したタケルは家庭用バイオコンピュータ「パーソナルトミー」の前に座り、仮想現実世界へと旅立った。
 数日前に2組のペアチームにやられた口惜しさから、タケルはトミーにプロテクターショップへ案内するよう指示したが、強化アラミドの防具セットは所持金に比して高価で、ショップに現れたヒロシに借金を申し入れ代わりにショットガンを与えた。何も買わずに立ち去ったヒロシを横目に、防具屋の店主は「奴は冷やかしかい。おまえさんは買うつもりがあるのかね?」 とタケルに毒づいた…
 


++++++++++これより本編+++++++++++



★★★「おう二時半に」
 そうタケルが答えると、ヒロシはショットガンを片手に、従者と共に防具ショップを出て行った。
「奴は冷やかしかい。おまえさんは買うつもりがあるのかね?」
 それまで黙っていた防具屋の店主が、タケルに無愛想な声を掛けた。この店主もトミーと似たような、使い古した毛皮で作った古風な服装である。★★★
「このレザーヘルメットとスーツ、それにアーム&レッグ・プロテクターセットも売りたい」
「買取は、ヘルメットとスーツで四五ゼニー、アーム&レッグ・プロテクターセットは十、全部で五五ゼニーだ。よろしいかね?」
 タケルは、アーム&レッグ・プロテクターセットを一つずつ取り外し、四つ共カウンターの上に置いた。次に、ヘルメットとスーツを大儀そうに脱ぐと、その隣に並べた。
 店主はそれを目と手で確かめる。スーツを指差し、この大きなキズが無ければもう五ゼニーは高く買い取れたんだがのと言った。上下つなぎのアンダーウェア姿のまま、タケルはその大きなキズを見て舌打ちした。
「ちぇ、そのキズさえ無ければ、ヒロシからお金を借りなくても済んだのか……」
 タケルは手放したショットガンが少し惜しくなったが、長剣で敵を斬る快感を思い出した。それに前回見つけた光線剣もある。
 まあいいかと思い直したタケルは奥の陳列棚を指差した。
「あの強化アラミドのヘルメットとファイティングスーツ、それにアーム&レッグ・プロテクターセットが欲しい」
 店主は、指定された品物を棚から取って、丁寧にカウンターへ並べた。これは良い買い物だよと愛想笑いしながら、手早く石版で計算してみせる。
「全部で二〇〇だ……ひーふーみーよー、五十ゼニー金貨四枚で、二百ゼニー丁度ですな、毎度。今ここで着用してみるかね?」
 タケルの差し出した金を受け取ると、店主はそれをしまいながらそう言った。
「着けてくれ」
 タケルは、先ほど防具を自分で外した時のしんどさを思い出してそう答えた。
「こちらへどうぞ」
 店主がフィットネスルームへ案内する。
 二人の店員が、手馴れた調子でタケルに防具を着けて行く。
 大鏡には若武者アントンの全身が映し出される。
(これが俺か?)タケルは満足して言った。
「おお こいつはぴったりだ。いいねぇ」
「近い内にさらに上物が入りますから、またご贔屓に」
 店主は機嫌良くそう言った。
 手を軽く振って、若武者は従者と共に店を出る。
 ぎぃ~と重々しい音を響かせて扉が閉じた。

 午後二時半、『星夜の誓』プレルーム……
「アントン待っていたよ」
 鋲打ちレザー製ファイティングスーツ姿のクリントヒロシは、鈍く黒光りするショットガンを抱えて待っていた。スーツはあの後オイルで磨いたのか、細かい傷はさほど目立たなくなっている。
「クリント、ショットガンの持ち方が様になってるじゃん」
 アントンタケルは、上から下まで新品の強化アラミドスーツで固めていた。背中には見た目重そうな、古式西洋風の長刀を背負っている。
 クリントはショットガンをくるくると回してから構えた。
『ドカン!』
 プレルームのはるか前方にある人型の的は、上半身が見事なまでにぶっ飛んだ。火薬のきな臭い匂いがつーんと鼻を突く。
「命中! やるなクリント」
 アントンはクリントの射撃術に目を丸くして驚いた。
 クリントは当然という顔つきで「うん」と答え、アントンの真新しい防具に触れた。
 そのヒロシの手は小振りだが意外にごつく見える。手の平にはマメもいくつかできているようだ。
(ペンだこ?)勉強嫌いのタケルは、ペン入力でペンだこができるものかどうか少し不思議に思ったが、それは勿論ペンだこではなかった。
「このアラミドスーツ、軽そうでカッコ良いね。さっきのショップで買ったの?」
「ああ。あのレザースーツも全部売ってやっとこさ一セット買ったよ」
「高そうだね」
「一式で二〇〇ゼニーもした」
「一〇〇ゼニーは残してあるよね?」
「残金は丁度一〇〇さ」
 前回のプレーでは、タケルは急所一発攻撃を受けてHP(ヒットポイント)が0になり退場した。この時残金から一〇〇ゼニーを没収されてゲームはオートセーブされた。ゲームの強制終了時にセーブさえできれば次回は、自分がセーブした地点か相棒がセーブした地点かどちらからでもプレー可能だ。
 HPが0になった時、残金が一〇〇未満であればゲームオーバー。またスタート地点からやり直さなければならない。
 『星夜の誓』は、オンラインチーム対戦型RPGで、二人一組でチームを作る。一人のゲームオーバーはチームのゲームオーバーを意味する。従って一〇〇ゼニーの残高を常に確保しておくことは、チームを組む相手に対する最低限のマナーである。
「OK」慎重なヒロシは、タケルの返事に満足して微笑んだ。
「クリント、前回のセーブ地点に出よう」
 顔を引き締めてアントンがそう言うと、クリントも凛々しい目付きでショットガンを構え、
「OK! アントン、レッツゴー」と答えた。

 セーブ地点の古戦場跡は建物の残骸だらけだ。
 前回はタケルの油断があった。瓦礫の影に伏せっていた、五年二組のシンジとイチローのチームに、いきなり肩口から斬りつけられ一発でHPを失った。
 ゲームとはいえ、HPが0になる大打撃を受けるとかなりの苦しさを味わうことになる。
 スポーツサイクル全速走行中、コーナーで曲り切れず倒れた時の苦しさを想像してみてくれ……数百メートルも全速走行すれば心臓はフル操業だ。そこでいきなり倒れる。ペダルを踏んでいた脚の大筋肉群が運動ストップして、大量に供給されていた血液は行き場を失う。血液の出口を塞がれた心臓は、ドッキンドッキンと空回りし、血圧は急上昇する。
 この時君は、このまま死んでしまうんじゃないかと思うほど胸の苦しさを味わうことになるだろう。無論、その苦しさ痛みなどは脳内においてイメージされるだけで、身体内部に障害を受けたり、ましてや身体に外傷を生じることなどは一切無い。その数秒後には、何事も無かったかのように回復するのだ。
 アントンは用心した。
 辺りに人影は無いようだ。
 クリントはやや後ろについて援護している。
 二百メートルほど先にある、三階建ての崩れかけたビルが相当怪しい。
 そこまでの途中にも、人やモンスターが隠れていそうな大きな瓦礫がいくつかある。
 十メートル先の大瓦礫までアントンは一気に走った。
 右斜め前方からライフルの銃撃!
『パパパパパパ!』
 アントンがコンマ一秒前に居た地点を、連続弾が土煙を上げながら正確に舐めて行く……どうやらここの敵は、コンピュータが作り出した敵キャラだけのようだ。
 アントンが瓦礫まで辿り着いて身を隠した瞬間、
後方で『ドカン!』と音がした。
 アントンを狙っていた前方の敵スナイパーの銃が、腕ごと飛び散って本体がどっと倒れる。
 クリントのショットガンが炸裂したのだ……敵キャラ一体殲滅、三十ゼニーゲット!
「サンキュ。クリント。やるじゃん」
 振り返ったアントンが親指を立てると、後方でクリントも照れ笑いしながら親指を立てた。
「練習したからね」
 そう言って、クリントはショットガンをくるくると回した。
 その時アントンの隠れた瓦礫の裏側から、小型のモンスターが飛び出して、アントンの首に喰らい付こうと襲い掛かる。
 アントンは背中の長剣を引き抜くや袈裟懸けに斬りつけた。
 モンスターの肩口が大きく裂けて、グリーンの血飛沫が吹き上がる。
「ギョエッ!」
 奇声を上げてモンスターはもんどりうってその場に倒れた。
 辺りには吐き気を誘う腐臭が立ち込める。ザコ敵である……五〇ゼニーゲット。下ろしたてのファイティングスーツに掛かった返り血は、小さな染みだけを残して数秒後に消えた。
「やりぃ!」後方のクリントが親指を立てる。
「ああ。びっくりしたぁ。急に出て来るなよ」
 アントンはほっと胸を撫で下ろして深く息を吸い込む。その途端に大きくむせた(くっせぇ!)
 素早くアントンの地点まで進んで来たクリントが、アントンの涙顔に「大丈夫?」と声を掛けてから「めちゃカッコよかったよ、アントン」と、英雄を見るような眼差しを向けた。
「そう? じゃあ今の所ビデオにしといて」
 アントンがにっこり笑ってそう言うと、どこから現れたのか従者トミーが横に侍り、
「かしこまりました。クリントのショットガン命中からアントンの長剣によるモンスター天誅シーンまでを、ショートムーヴィに記録いたします」と答えて消えた。
「サンキュ」アントンはトミーの消えた辺りにお礼を言った。
 この後も用心しながら、二人は正面に見える崩れかけた三階建てのビルに接近する。
 時折遠くの方から乾いた銃声に混じって砲声が響く。腹に響く重低音。どうやらあのビルのさらに先は、激しい戦闘地帯らしい。二人共軽く身震いした。
 ビルの手前一〇〇M辺りに、一際大きな瓦礫群がある。
 ここからは約五〇M。
 アントンがクリントに目配せし、一気に瓦礫群の一番手前まで駆け抜け、背中の剣に手を掛けたまますっと腰を落す。
 息を殺して辺りの様子を伺う。
 アントンは、五〇M後方の瓦礫から顔を覗かせたクリントに、
「来い」と云う感じで手をしゃくった。
 クリントがショットガンを両手に抱え必死の形相で走り寄る。
 その直後、一つ先の瓦礫辺りから石ころが投げつけられた。
 二人に再び緊張が走る。息を殺し耳を澄ます。
「おい。タケルとヒロシか?」
 息を潜めた少年の声。聞き覚えがあった。二組のシンジの声に違いない。
「シンジとイチロー?」ヒロシが返事する。
「ここの敵は強敵だ。どうだ俺達と一緒に組まないか?」
 二組のシンジが、ほっとした声を出す。
「この先進めないのか?」タケルが訊く。
「まあな」二組のイチローが拗ねた感じで答える。
「どんな敵だ?」タケルたちは二組のチームに合流した。
 シンジは、五年生では一番大柄な少年で二組のボス的存在だ。声も太いし身体もがっちりとして運動神経も良く発達している。
 もう一人のイチローは、背は高いがひょろっとしていて、シンジと比べて頼りない感じだ。口は巧く、クラス内では屁理屈キングとして知られている。
「攻略本によると、ここの小ボスは『シュートミー』と云う女スナイパーだ」シンジが答える。
「シンジたち、攻略本使ってるの?」ヒロシが呆れたように訊く。
「悪いか?」イチローが凄む。
「ちょっとダサい」ヒロシはにっと笑った。
「俺たちのやり方はほっとけ、組むのか組まないのか?」
 シンジがタケルに訊く。
「手強いのか?」
 タケルは、向こう側のビルの方をじっと見ながら質問した。
「一〇〇M以内は百発百中らしい」シンジが答える。
「そんなに?」ヒロシは唇を噛んだ。
「進めないじゃんか、それじゃ」タケルは怒ったように言った。
 ここからビルの間までには、身を隠すことのできる大きな瓦礫などは見当たらない。
 シンジはビルの二階辺りを指差して、タケルに顔を向けた。
「シュートミーには弱点もある。あのライフルは六連発なんだ。弾込めには少し時間が掛かる。それに俺達はスモーク弾を持ってるから、それを使えばどうにかなると思う」
 シンジがベルトにつけた筒を指差して見せた。★★★


++++++++以下次回へと続く+++++++++




テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

オリジナル近未来SFアクション小説「黒い美学」第4回ー長編全28回
[前回までのあらすじ]
 アメリカのスペースウォーズ防衛計画から誕生したスーパーバイオコンピュータが、一般ビジネスおよび家庭向けに開発された。その「パーソナルトミー」は超高性能ゆえに、ゲーム中の仮想現実世界は驚異的にリアルなのだ。
 2033年7/2、江戸川台小学校5年3組の親友、二宮タケルと山田ヒロシの二人は、オンラインRPGゲーム『聖夜の誓』でもチームを組んでマップをちゃくちゃくと攻略中だった。
 タケルは数日前に2組のペアチームにやられた口惜しさから強化アラミドの防具セットを購入したが、不足分の借金と引き換えにショットガンをヒロシに与えた。ヒロシは短時間の練習で銃の名手に成長した。
 今日も絶妙なチームワークでマップを進んで行くと、2組のライバルチーム、シンジとイチローが待っていた。この先の難敵"シュートミー"攻略の為に協力しないかと言う。シュートミーは百発百中のスナイパーで二つのチームが協力しないと攻略は難しそうだ……
 
 


++++++++++これより本編+++++++++++



★★★ ここからビルの間までには、身を隠すことのできる大きな瓦礫などは見当たらない。
 シンジはビルの二階辺りを指差して、タケルに顔を向けた。
「シュートミーには弱点もある。あのライフルは六連発なんだ。弾込めには少し時間が掛かる。それに俺達はスモーク弾を持ってるから、それを使えばどうにかなると思う」
 シンジがベルトにつけた筒を指差して見せた。★★★
「じゃあ使えばいいじゃん」タケルは筒を見て無愛想に言った。
「俺達の目の前で、中学生のチームが二人共やられた」
 イチローは少し先の地面を指差した。
 そこには人型の黒い影が転がっていた。
 やられたキャラクターは、ゲーマーであろうと敵キャラであろうと、黒いイメージになって四八時間その場に残る。
「そいつらがやられたから、びびってんだ?」
 タケルがそう言うと、シンジとイチローは一瞬目を合わせ情け無さそうに下を向いた。
 タケルは、彼らがやられたシーンを想像した……ゲームメーカーの自主規制により、参加プレーヤーのキャラクターがやられても、敵キャラのように出血したり腕や足が飛び散ったりはしない。それでも叫び声とか呻き声はリアルそのものだ。タケル自身が、前回かなりの悲鳴を上げたではないか。
「その人達、スモーク持ってなかったの?」ヒロシが訊く。
「そいつらもスモークを使ってたけど、スモークが風で切れた所で狙い撃ちだよ。HPが0になるまで何発も撃ち込まれて……」
 イチローは強がりを捨て恐怖に震えた。
「その女見たの?」ヒロシが訊く。
「いや。あのビルのどこかから撃ってるのは間違いないけど、二階か三階かもわからない」
 シンジは、普段と余り変わらない落ち着いた様子で答えた。
 タケルはシンジを見詰めた。
 前回このシンジに斬られて退場になったのだ。しかし、今はリベンジの時ではなかった。
「強敵だな」タケルはシンジにそう言った。
「ここまでのステージでは最強だ」
 シンジは、だからこそタケルの力が必要だと目で訴えた。
「強化アラミドスーツでもダメかな?」
 タケルは半信半疑に、自分のファイティングスーツを叩いて見せた。
「あの中学生達もアラミド着てたよ」シンジは首を振る。
「ダメか……」タケルが呟く。
「当たらなきゃいいのさ」イチローがうそぶく。
「百発百中なんだろ?」
 タケルが睨みつけると、イチローは目を逸らせた。
 シンジが「まあ作戦が無い訳でもない」と、耳を貸せとでもいいたげな素振りで、右手の平を上にして指先をしゃくる。
 タケルとヒロシは半歩近づいた。
「二チームで組めば突破できるぜ。先ずスモークを二発、四〇M先に転がす。そこまで先発の一チームが一気に進む。後から来るチームは途中まで走り、風向きを見て風上にスモークを一発追加するんだ」
 タケルとヒロシが頷くのを確認して、シンジは続ける。
「後続チームが合流するのを待って、先発チームがそこからまた四〇M先に二発転がす。そこまでは同じやり方で進む。そこからは残り二十Mだ」
 シンジはそこで停めて、タケルとヒロシの目を見た。
「それで?」タケルは先を促した。
「攻略本によると、ビルから十M以内はスナイパーが窓から身を乗り出さない限り死角になる。シュートミーがターゲットを発見してから、ショットするまでには二秒かかるんだ」
 シンジの後を継いで、イチローがそう説明した。
「じゃあ死角までの十Mを、二秒以内で走ればセーフだね?」
 ヒロシは間髪を入れずそう言った。
「ヒロシお前、頭良いな」
 シンジとタケルは、同時にそう言ってヒロシを見た。
 ヒロシは照れ笑いしながら、レザーヘルメットの上から頭を掻いた。
「俺達はずっとその作戦を考えて、お前らが来るまで三十分間も待ってたんだ」
 イチローが、まだ深刻そうな顔を変えずにそう言った。
「それって二人でもできるんじゃないか?」
 タケルは今聴いた作戦を反芻して、チームワーク良くやれば二人でも十分できそうな気がしてそう訊いた。
「できないことは無いが、危険なんだ」
 シンジは再び、お前の力が必要なんだという顔をする。
 熱い視線に思わずタケルは目を逸らせた。
「そうかな? 二チームでも一チームでも、同じ様な気がするけどな」
 タケルは、そっぽを向いたまま尚も首を捻る。
 シンジの後ろから舌打ちの音が聞こえた。
「タケルはあのシュートミーの恐ろしさを知らないから、そんなことが言えるんだよ」
 イチローが妙に暗い声を響かせた。
 シンジが俯いたイチローに目をやってから再びタケルに視線を戻す。
 タケルも目を合わせた。
「そうだよ。あの狙撃を見たら誰だってびびるぜ」
 シンジが一人で何度も頷く。
「わかったよ。じゃあ共同作戦だ。スモークはお前ら持ちでいいよな」
 そう言ってから、タケルは同意を求めてヒロシを見た。
 ヒロシはこくんと頷いた。
 タケルは、早くシュートミーと対決してみたくなっていた。
「お前らスモーク持ってないの?」イチローが訊く。
「一発も無い」タケルはベルトを見せて答えた。
「俺達がスモーク六発持ってるさ」
 シンジが、スモーク弾の筒をセットしたベルトの両側をぽんと叩いた。
「助かるね」タケルはにやっと笑う。
「ちぇ」スモークは一発十ゼニー、イチローが舌打ちをする。
「そうと決まったら行くぜ」
 タケルはシンジに声を掛ける。
 シンジは大きく頷いた。
 タケルは傍らに落ちていたぼろきれを丸めて、五Mほど先を狙って高く放った。
 一発の銃声が響き渡り、ぼろきれは地上に落ちる間際を撃ち抜かれた。
 タケルは呆然とする。
 イチローが少し縮み上がったのをヒロシは見逃さなかった。
 シンジは表情一つ変えなかった。
「ちょっと反応が早過ぎないか?」
「いやタケル君が手を出した瞬間から察知して、きっかり二秒だったよ」
 ヒロシはリストウオッチを見せた。
 ストップウオッチモードのディスプレーは2秒01を示している。
「じゃあ攻略本通りか?」
「みたいだな」二人のやりとりを見ていたシンジが答えた。
「しかも射程距離一〇〇M以内は確実か……」タケルが呟く。
「恐ろしい奴さ……」イチローが下を向く。
「シュートミーはどこから撃った?」タケルが詰問する。
「二階だったような気がするが……自信はないな」
 シンジは静かに答えた。
 タケルはヒロシを振り返る。
 ヒロシは首を横に振った。
 イチローはそっぽを向いている。
「よしスモーク弾を二個くれ」
 そう言って、タケルはシンジに手を差し出した。
「ほい」シンジが、ベルトから筒を二本抜いてタケルによこした。
「投げるぜ」
 さらに二本の筒をベルトから抜いて、シンジはその内一本を右手で握り直した。
「OK」
 残りの三人が答える。
 シンジはスモーク弾を三十M遠投した。
 続けてもう一本。
 着地した筒は二本共さらに十Mほど転がって、僅かな時間差でぱん、ぱんと爆発し、白い煙をもうもうと吐き出した。
 煙がビル全体を隠す所まで成長してからシンジが叫んだ。
「GO!」
「ラジャ」
 イチローが答えると、二人は一斉にスモークの中心部へ全速力で走った。
 シンジとイチローが煙幕まで半分ほど走った所で、タケルがヒロシに声を掛けた。右手には筒が握り締められている。
「俺達も行こう」
「OKタケル君」
 ヒロシの返事に、タケルが少し不満げな顔をして言った。
「あいつらもいるからアントン、クリントでなくてもいいか?」
「うん」ヒロシが嬉しそうに答える。
「よしヒロシ、GO!」
 左手人差し指を前に振ると同時に、タケルが走り出す。
「OK」
 ヒロシもショットガンを両手に、遅れまいと全力で走る。
 三十Mほど走ると、スモークのカーテンのこちら側でシンジたちが少しずつ右に移動しているのに気が付いた。左からの風でスモークのカーテンが右に流されているからだ。
 タケルはスモーク弾を一つ手に取り、シンジたちのやや左前方に投げつけた。
 シンジたちの左前方に新たなカーテンができ、シンジたちはそこへ移動するやスモーク弾を二本続けて遠投した。
 四十M先やや左方へ転がった二本の筒は、その場で破裂して大きな煙幕を張る。
「いいぞシンジ、多分ぴったりだ」後ろからタケルが声を掛ける。
「任せとけって」
 振り向いたシンジが親指を立てる。そして隣のイチローの肩をぽんと叩いた。
「ついて来い!」
「ラジャ!」
 シンジたちがカーテンの左まで寄ってから、新たに作ったスモークの出来栄えを観察する。
 新たなカーテンは、ビルに対して丁度死角を作っていた。
「GO!」
「ラジャ」
 シンジとイチローは、前方の煙幕のやや右を目指して走った。
 数秒後、タケルとヒロシも続いた。
 新しいカーテンの十M手前辺りで、タケルはスモーク弾をまた煙幕の左前方へ投げつける。
 新しいカーテンの手前に四人の仲間が終結し、少しずつ右に移動する。
 煙幕がやや薄れて来たようだ。ここからビルまでは約二十M。
「スリー,トゥ,ワン,GO!」
 四人は一斉にビルに向けて走った。
 ビルの中で何か固い金属音が一つ響いたが、銃声は無い。
 無事死角まで入ったようだ。
 ビルの一階に走りこんだ四人は、注意深く周囲を見渡した。
 後方の煙幕は既に薄くなっていて、四人が作戦を開始した瓦礫群が無用心にその姿を晒していたが、そんなものに感傷している暇など無い。
 ここからは逃げ場の無い、生死を賭けた接近戦なのだ。もう引き返すことはできない……
 四人が恐る恐る歩くたびに、足元で建物の破片が転がる音が四方八方に反響する。
 正面間口の支柱は、所々破壊されながらもどうにかビルの躯体を支える程度に残っている。
 左右両サイドと奥側は、窓部がほぼ破壊されているものの、壁はほぼ残っていて、ぼろぼろの支柱と共に上階をしっかりと支えているようだ。
 鉄筋がむき出しになった階段が右奥に見える。
 階段は奥の壁に張り付くようにして一直線に伸び、途中には踊り場が無く、二階フロアの丁度右奥の口に出る。
 二階の床と一階の天井を兼ねるコンクリートフロアパネルは、中央付近の一箇所の大穴を除けばほぼ無事だ。
 四人が耳を澄ますと、遠雷の様な砲声が時折聞こえるだけで、ビル自体は静寂そのものだった。
 ここのどこかにあの悪魔が潜んでいるのだろうか……
 タケルはごくりと唾を飲み込んだ。★★★


++++++++以下次回へと続く+++++++++




テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

オリジナル近未来SFアクション小説「黒い美学」第5回ー長編全28回

[前回までのあらすじ]
 アメリカのスペースウォーズ防衛計画から誕生したスーパーバイオコンピュータが、一般ビジネスおよび家庭向けに開発された。その「パーソナルトミー」は超高性能ゆえに、ゲーム中の仮想現実世界は驚異的にリアルなのだ。
 2033年7/2、江戸川台小学校5年3組の親友、二宮タケルと山田ヒロシの2人は、オンラインRPGゲーム『聖夜の誓』でもチームを組んでマップを攻略中だったが、前回のセーブ地点から戦場の瓦礫群を進んで行くと、2組のライバルチーム、シンジとイチローが途中で二人を待っていた。このステージのラスボス・シュートミーは百発百中のスナイパーで、彼らとの協力無しでの攻略は難しそうだ。
 シュートミーの潜む崩れかけた3階建てのビルと、4人が今居る大きな瓦礫との間には身を隠せる場所が無い。2チームは煙幕弾を分け合いリレー形式で煙幕を作りながら進んで行ったが、三つ目の煙幕を作るには手持ちが足りなかった。最後は「2秒間の隙」を突いてどうにかビルまで辿り着いたが、ここからはさらに大きな危険が伴う接近戦だ。1階の天井には大きな穴も開いているが……
 
 


++++++++++これより本編+++++++++++



★★★ 鉄筋がむき出しになった階段が右奥に見える。
 階段は奥の壁に張り付くようにして一直線に伸び、途中には踊り場が無く、二階フロアの丁度右奥の口に出る。
 二階の床と一階の天井を兼ねるコンクリートフロアパネルは、中央付近の一箇所の大穴を除けばほぼ無事だ。
 四人が耳を澄ますと、遠雷の様な砲声が時折聞こえるだけで、ビル自体は静寂そのものだった。
 ここのどこかにあの悪魔が潜んでいるのだろうか……
 タケルはごくりと唾を飲み込んだ。★★★
「シュートミーはこの上だな?」タケルはシンジを振り返る。
「階段は一つだけだ。外側には無い」シンジが答える。
「それも攻略本か?」
「悪いか?」シンジの代わりにイチローが横目で睨んだ。
 タケルが先頭になり、身体の左後部をビル奥側の壁に擦り付ける様にして、右上側を注意しながら崩れかけた階段をそろそろと登って行く。
 二番目はタケルを援護するシンジ。
 三番目がヒロシだ。
 少し離れたラストのイチローは、タケルの指示により、銃を天井の大穴に狙いを付けながら援護している。登る途中を狙撃されたら全員が格好の標的になってしまうからだ。
 タケルが二階に頭を少し出した瞬間、
『パン!』
 頭上を弾がかすめ、頭のすぐ左上部で壁の一部が飛び散って破片がばらばらと落ちて来た。
 慌ててタケルが一歩下がる。
 階段半ば辺りで銃を構えていたイチローは、上部の異変に驚いて下まで滑り落ちた。カンカンと金属質な音がビル中に響き渡った。
 その時また『パン!』と音がした。
「ギャ!」と悲鳴を上げて、イチローが床を転がった。
 天井の大穴からライフルの銃先が覗いている。
 タケルが二階に躍り出て長剣を引き抜いた。
 大穴から腹ばいの姿勢で下を狙っていたスナイパーは、慌てて狙いをタケルに向け直して一発撃った。
『パン!』
 弾丸はタケルの左側を大分外れて壁の一部を破壊した。慌てて撃った女の威嚇射撃だった。
 タケルが走り寄ると、女は銃を抱えて三階へと一目散に階段を駆け上った。小柄だが敏捷な女だ。
『パン!』
 次いで駆け上がったシンジの拳銃が火を放ったが、女の足元付近をかすめただけだった。
 女はかなり利口な奴だ。先頭のタケルを一発目で驚かせて、全員が階段から駆け下りる所を、次から次へと狙撃するつもりだったようだ。
 タケルとシンジは、ほっとしたように目を合わせた。
 三階への階段は、一階と二階を繋ぐ階段とは対角上に離れた位置にある。階段の半ばには踊り場があり、そこで折り返す構造になっている。
 ビルの正面外側から見れば、二階の左手前側に位置しており、踊り場が左側と手前側の壁に接している。
 階段の下半分はビル手前側の壁に接していて、踊り場で右回りに折り返して三階に向かう。
 イチローの様子を見て来たヒロシが上がって来て、三人が二階に揃った時、見える範囲で敵は誰一人居なかった。
 ヒロシはショットガンを、階段の三階に繋ぐ口へ狙いをつけて構えている。
 シンジが床の大穴を覗くと、下で体操座りをしているイチローが見えた。
「イチロー大丈夫か?」シンジが声を掛ける。
「足を撃たれたけど、ヒロシに万能薬塗って貰ったから直に治ると思う」イチローが痛みの為か情けない声を出す。
「ちょっとそこで休んでろ」シンジが声を掛ける。
「悪いね」
「いいさ、任せとけって」
 三階からの音が聞こえなくなった。シュートミーは息を潜めて体勢を整えているのかも知れない。
 二階は一階と同じ様にだだっ広いスペースで、天井に穴は無い。フロアには仕切り壁の残骸が幾つか残っている。
 タケルは仕切り壁の残骸を慎重に調べて回った。
 やはり誰も隠れてない。
 三階もここと同じ様な状況ならば、今度こそ階段を登って行くのは危険だろう。シュートミーは逃げ場の無い三階で、仕切り壁の残骸にその身を隠しながら、階段口に狙いを付けて待ち伏せしている筈だ。
「シュートミーは、遠くからの狙撃は得意みたいだけど、ライフルが大きくて、狭い場所は苦手みたいだね」
 ヒロシが分析してみせる。
「小さな女だったからな」シンジが答える。
「でも階段口から三階に顔出した途端に、今度こそやられるぜ」
 タケルは確信を持って主張した。
 その顔は実年齢より二つ三つほど大人びて見えた。
「飛び道具はヒロシのショットガンと俺のオートマグナムか。タケルは銃を持ってないのか?」
 シンジがタケルに顔を向ける。
 生死を賭けた緊張の為か、シンジも煙幕作戦前より大人びて見えた。
「この長剣と、後は使ったことが無い光線剣だけだよ」
「光線剣?」タケルの返事に対し、シンジが妙な顔をする。
「この前のダンジョンで、宝箱見つけたんだ」タケルが説明する。
「そんなアイテム、攻略本には無かったぜ」シンジが首を傾げる。
「頼りにならない本だな?」
 タケルは、どうでもいいさという感じで言った。
「いや、あれは完全版の筈だけどな」シンジは顎に手をやりながら頻りに首を捻っている。
「へえ?」
「大体あのダンジョンには、宝箱は無い筈だぜ」
 尚もシンジは自説を述べる。
「そうなの?」タケルは、その意味を評価しかねて訊いた。
「まあいいさ。その光線剣てヤツ、ここで使ってみれば良いじゃないか?」
 シンジは、攻略本にも載っていないその武器に期待した。かなりの威力があるお宝かも知れない……
「そうだな」
 タケルはポケットから、二十CMサイズのベルトの付いた棒を取り出した。
 ボタンらしきものは見当たらない。
 ヒロシはただ黙って二人のやり取りを見ていた。
「これどう使うの?」
 タケルが天に向かって問うと、どこからとも無く従者トミーが現れた。
 三人の間の緊張がすっと解けた。
 ゲームにポーズが掛かったからだ。戦闘中にポーズを掛けることができないのは言うまでも無い。
 トミーは、タケルの手にする光線剣をじっと見詰めている。やがて重い口を開いた。
「そのアイテムは『聖剣ムラサメ』?……光線剣≠ムラサメ、データと一部不一致?……正確な該当データがありません」
「どうして?」
「わかりませぬ。お役に立てなくて。ではごめん……」
 そう答えるとトミーは消え、自動的にポーズが解除された。
 三人にまた緊張が帰って来る。
 ヒロシは再び三階の階段口にショットガンを構えた。
「使い方がわからないよ」タケルがシンジに、その棒を突き出す。
「しょうがねえな、それ」シンジの当てが外れたようだ。
「うん。頼りになるのは背中の長刀だけだ」
 タケルは、柄に右手を当てた。
「じゃあタケルが最後だな」シンジが提案する。
「ボクが先頭で行くよ」普段は慎重なヒロシが、大胆に主張する。
「ヒロシ、大丈夫か?」シンジが心配そうに訊く。
「任せといて」ヒロシは自信たっぷりに答えた。
「シンジ、ヒロシを援護してやってくれ」
 タケルがシンジの目を見る。
「任せな」シンジがウィンクで答えた。その目は既に一丁前の戦士のものだった。
 先頭で階段を登って行ったヒロシは、三階の階段口手前で頭を上に出さずに、ポケットから銃弾を一掴み手に取ると、階段口からそれをフロア中心方向へばら撒いた。途端に、
『パパパパッパン!』と連続のライフル音が鳴り響いた。
 ヒロシは、ショットガンだけを階段口に押し上げ、発射レバーを引いた。
『ドカン!』銃声のした方向への、いわゆるめくら撃ちだ。
『パン!』直後にライフル音がまた響き、同時にばらばらと小さな物が飛び散る音がした。
 後で響いた音は、ヒロシのショットガンで砕かれた、壁の破片が床に落ちる音だ。
「よし六発撃った。シンジ君行くよ」
「おう!」
 階段口から三階フロアへ、ヒロシは一気に躍り出る。
 ショットガンを構えた先に、シュートミーがライフルに弾込めをしている半身が仕切り壁向こう側の右に見えた。
『ドカン!』ヒロシのショットガンが炸裂する。
 シュートミーはその第二弾を予測していたようだ。寸前で仕切り壁裏へ左に身を引くと同時に弾込め完了。
 ヒロシを狙って半身を覗かせてライフルを構えた。
 シュートミーが盾にしている仕切り壁は、ビルの左奥側にある。
 ヒロシのショットガンは、破壊力はあるが二発で弾込めしなければならない。ヒロシは必死で、手近にあったビル手前やや右側の仕切り壁を盾にして回り込もうとする。
 ヒロシを狙うシュートミーの右側面を、階段口からシンジが、オートマグナムで慎重に狙って発射……『ダン!』
 シュートミーは、さっと仕切り壁に身を引いて、マグナムの銃弾をかわすやいなや、今度は大胆にも、だっと全身をさらすようにして飛び出した。同時にシンジを狙い撃つ……『パン!』
 シンジは額の真ん中を撃ち抜かれ、とてつもなく大きな悲鳴を上げ回転するように倒れた。
 HP=0即退場……シンジだった物体は黒い塊となり、階段の踊り場までがらがらと音を立てて転がり落ちた。
 一階に居たイチローは、シンジの強制退場を知ってオフラインした。
 チームパートナーが倒れオートセーブされた以上、この後自分一人がこのステージに留まってもチームの役には立たない。ゲームである以上それは当然の選択だった。
 自分の側面を転がり落ちたシンジを見て、タケルの怒りが爆発した。(くそ!)
「ヒロシ、大丈夫か?」
 タケルが階段口の下から呼び掛けた。
「タケル君、ボクは撃たれてないよ」
 やや離れた所から、ヒロシの返事が返って来た。
「シンジはやられた」かすれた声でタケルは言った。
「ボクを援護しようとしていたんだ。シュートミーは、シンジ君の行動を予測していた……ボクには、シュートミーをやっつける自信が無い……」
 さっき先鋒を志願した時とは打って変わった様に、ヒロシは弱弱しい声を出した。
 いつしか遠くの銃声や砲声も鳴り止んで、静寂のフロアに二人の会話だけが響いている。
「シュートミーはどこに居る?」
 気を取り直したタケルは訊いた。
「階段口左側八Mで、ビル正面から見れば、左奥側に見える仕切り壁に隠れているよ。そこから右側に半身を覗かせてこちらの様子を見ている。ボクはビル入り口側右手の仕切り壁に隠れて居る。丁度階段口の前方十M当りだよ」
 タケルは安心した。
 ヒロシの冷静な説明で状況が掴めたこともあるが、その声は震えていてもヒロシがまだまだ勇気を失っていないことがわかったからだ。
「長剣だけじゃどうにもならないな」
 タケルはヒロシと話しながら、この状況の打開策を考える。何か巧い方法が無いか……
「シュートミーも身動きできない筈だよ。ボクのショットガンが狙ってるからね」
 ヒロシは、幾らか元気を取り戻してそう言った。
「両者動けずか……」
「どうする? タケル君」
 ヒロシの声からは弱弱しさが全く消えた。普段のヒロシだ。
「シンジとイチローの仇は絶対取る」
 タケルは、握りこぶしに力を込めた。
「でもどうしたら?」
 ヒロシの問い掛けが、クイズのファイナルアンサーのコールの様に聞こえる。★★★


++++++++以下次回へと続く+++++++++




テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

オリジナル近未来SFアクション小説「黒い美学」第6回ー長編全28回
[前回までのあらすじ]
 アメリカのスペースウォーズ防衛計画から誕生したスーパーバイオコンピュータが、一般ビジネスおよび家庭向けに開発された。その「パーソナルトミー」は超高性能ゆえに、ゲーム中の仮想現実世界は驚異的にリアルなのだ。
 2033年7/2、江戸川台小学校5年3組の親友、二宮タケルと山田ヒロシの2人は、オンラインRPGゲーム『聖夜の誓』でもチームを組んでいて、古戦場跡ステージのラスボスを攻略すべく、2組のライバルチーム、シンジとイチローと協力することにした。なにしろラスボス・シュートミーは百発百中のスナイパーなのだ。
 どうにか4人は崩れかけたビルまで辿り着きシュートミーに決戦を挑んだが、2階に進む途中イチローが足を狙撃され、3階まで追い詰めた所でシンジが殺された。怒りに燃えたタケルだったが、3階で対峙するヒロシの状況報告を聴く内に冷静さを取り戻した。困難な状況の中「でもどうしたら?」とヒロシが問い掛ける……
 
 


++++++++++これより本編+++++++++++


★★★
「長剣だけじゃどうにもならないな」
 タケルはヒロシと話しながら、この状況の打開策を考える。何か巧い方法が無いか……
「シュートミーも身動きできない筈だよ。ボクのショットガンが狙ってるからね」
 ヒロシは、幾らか元気を取り戻してそう言った。
「両者動けずか……」
「どうする? タケル君」
 ヒロシの声からは弱弱しさが全く消えた。普段のヒロシだ。
「シンジとイチローの仇は絶対取る」
 タケルは、握りこぶしに力を込めた。
「でもどうしたら?」
 ヒロシの問い掛けが、クイズのファイナルアンサーのコールの様に聞こえる。★★★
 タケルは目まぐるしい速度で、色々な方法を考えてみた。
 問題はタイミングだ……
「シュートミーは瞬間的には反応できない筈だ。シンジの時は、ヒロシを狙う振りをして、始めからシンジを狙っていたからすぐ反応できた」
 タケルは考え考えそう言った。
「うん。そうだろうね。でもぼくたちの会話って、シュートミーにも聞かれてるけど、それでもいいの?」
 心配そうにヒロシが訊く。
「大丈夫だ。シュートミーは予定していない限り、狙いを付けるのに二秒かかる」
 タケルは、ヒロシを勇気付けるようにそう言った。
「うん」
「だから、作戦を知られていても、スタートの合図がわからなければ二秒の余裕がある」
「うん」ヒロシは微笑んだ。
「先ず、俺が長剣を振りかざして三階に飛び出す。シュートミーは俺に狙いを付けるだろう。でも正確に撃つのには二秒掛かる。そこでヒロシが、ショットガンで撃てばイチコロだろ?」
 それほど自信があって言ってる訳じゃないが、タケルは自分自身にもそう言い聞かせるように言った。
「なるほど」(良い思い付きに見えるけど、そんなにうまく行くのかな?)
「銃弾と剣先だけな」ヒロシにヒントを送る。
「……うん」何となくヒロシは理解した。
「スタートの合図は、今日のヒロシのタクシーキャブの色ね。色相順に秒読みするから」
 タケルの得意科目は美術だ。そしてヒロシは勉強家だから、色相環も理解していた。
「OK」ヒロシはブルーキャブを思い出す。(さすがだね、タケル君)
「青紫、紫、赤」
 タケルが色相環で秒読みを開始すると、ワンツースリーのタイミングでヒロシが銃弾を転がした。この辺りは阿吽の呼吸だ。
 タケルが、長剣の先だけを階段口に差し出す。
『パパ! パパッパン!』
 五発の連続弾が、シュートミーのライフルから発射された。
 始めの二発は、銃弾の転がった辺りの上部空間を貫いた。
 次の三発は、銃先を右四五度にターンして、タケルの長剣に命中した。
 残りは一発……
「赤,橙,黄,緑,青」
 タケルは長剣を振りかざし、一気に三階フロアへ飛び出した。
 身を左に翻すや否やシュートミーに襲い掛かる。
 シュートミーは、ライフルをタケルに向けた。
『ドカン!』
 ヒロシのショットガンが、シュートミーのライフルを腕ごと砕いた。

 ほっとして近付いて見ると、シュートミーはまだあどけなさを残している中学生位の美少女キャラクターだった。
 フロアに転がったままで、左手先を失ったシュートミーは苦しそうに二人を見詰めている……
 砕けた腕とライフルは消滅したようだ。
 それも表現が残酷過ぎないようにと自主規制した結果らしいが、目の前で苦しんでいるリアルヒューマンタイプのボスキャラを見ていると、その自主規制もご都合主義そのもので、ある種の虚しさすら感じさせる。とは言え、それは大人の見方なのだろうか? プレーヤーの少年達は、ゲームと割り切っているせいか、息も絶え絶えの少女に対する感傷などは一切持ち合わせていないようなのだ。
「シュート・ミー……」
 二度目は声にならず、口だけをシュート・ミーと言う形にしている。苦しい息遣いだけがその場に響く。
 タケルとヒロシからは、先ほどまでの悲壮感はすっかり消えていた。このステージはこれでクリアである。
「ああ。これ見たことあるよ」
 シュートミーを見下ろしながら、嬉しそうにヒロシが言った。
「何を?」訳がわからず、タケルはヒロシを見る。
「一九八〇年代のアメリカ古典映画で、幻の傑作戦争映画と言われている『フルメタルジャケット』に出て来るベトコンの女スナイパーだよ」
 ヒロシはオールドムービーのマニアだ。
 タケルにはベトコンと云う言葉の意味がわからなかったが、何やらおもしろそうな響きを感じ取った。
 ベトコンの悲劇を、彼が真に理解していればそんなことは感じなかっただろうが……
「それっておもしろいの?」
 瀕死のシュートミーそっちのけで、タケルは訊いた。
「ボクは好きだけどね」
 オールドムービーがタケルに受けるかどうかを気にして、ヒロシは自信無さそうに答えた。その間もヒロシは、シュートミーの様子を見ている。
「今度一緒にその映画を見てみようか?」
 タケルは素直に見たいと感じた。
「いいよ」ヒロシが嬉しそうな顔をする。(大丈夫かな? あの映画を本当に楽しめると良いけど)
 反撃される心配は無い筈だが、ヒロシは横目でずっとシュートミーを見詰めていた。
「シュート・ミー……」
 苦しそうに、ベトナム系の美少女が時折囁いている。
「今すぐ楽にしてあげるよ」ヒロシがショットガンを構えようとした時……
「わかったよ」と言って、タケルが長剣でシュートミーの心臓を一気に突いてとどめを刺した。
 引き抜いた長剣を、タケルは静かに床に置く。
 緑色の血液がこぼれ出し、シュートミーは黒い物体となった……三〇〇ゼニーゲット。さすがはボスキャラだ。タケルは半金の一五〇ゼニーをヒロシに分け与えようとした。
「違うよ」ヒロシは、シュートミーを指差して言った。
「何が?」タケルがきょとんとする。
「シュート・ミーは、私を撃ち殺してという意味だよ」
「だって俺、拳銃もライフルも持ってないから」
 タケルは両手を軽く広げてそう答えた。
 止めを刺すのは、銃よりも剣の方が寧ろ相応しいとさえタケルは思っている。
「だからボクが撃とうと思ったのに……」
 ヒロシは抑揚の無い声を出した。
(ここはどうしても銃でなければならないんだ。そんなこともわかってないなんて……キューブリックさん、ごめんなさい)
 ショットガンの安全装置にロックを掛けてから、タケルに顔を向けた時のヒロシは、いつもの笑顔に戻っていた。
「まあいいか。これで第三ステージクリアだね?」
「この先の方が、大砲とか出て来て大変そうだな」
 タケルは、次のステージが少し気になってそう答えた。
「そうだね。きっとこの先の方が危ないよ」
 ヒロシは下を向いて同意した。
 突然、フロア右奥で小部屋のドアがそっと開いた。
 白のフルフェイスタイプヘルメットに黒い強化アラミド製ファイティングスーツ、主要箇所をチタン合金鋼製の白いプロテクターで固めた完全武装の兵士……
 タケル達よりも遥かに背が高いが、兵士は腰を落とし、恐る恐るという感じでドアを押し開けて出て来る。
 大口径ライフルを構えながら、きょろきょろと左右を見渡す。
 少し前に出た所で、兵士は右方の崩れた仕切り壁に二人の存在を見つけた。
 はっと身を引いた途端、兵士は小さな瓦礫をブーツの踵で跳ね飛ばした。
『ガラッ!』
「誰だ?」
 音に気付いたヒロシがショットガンを構える。
 瞬時に反応した兵士は、ライフルをヒロシに向けて発射した。
『パン!』
 命中……ヒロシはショットガンをその場に落とし、両手で胸を押さえ、高い金属音の様な叫び声をビル空間に響かせた。
 そして前のめりに床に倒れると、シューッと音を発し、HP=0となって黒い塊になった。
 瞬間的に怒りが沸騰した。
 タケルはポケットからベルトの付いた小さな棒を引き抜いた。
『ブーン!』
 うなりを上げて、棒の先に白い光が刀身となって飛び出した。
 その光が揺らぐと、タケルの顔の陰影も微妙に揺らいだ。
 揺らぐ光と怒りのせいで、タケルは鬼の様な形相になる。
 光線剣の光を見た兵士は、恐怖におののき一歩後ずさった。
(光線剣で、目の前の敵を斬れ!)
 誰かがタケルの頭の中で囁いた。
 鬼となったタケルは、風の様な俊敏な動きで兵士に駆け寄る。
 兵士は反射的にライフルを構えた。
 タケルは怒りに任せ、遠間から光線剣を振り下ろす。
『パパン!』
 兵士はライフルを二発発射した。
 タケルの光線剣が勝手に反応して動く。
『ギギン!』
 二つの弾丸を光線剣が跳ね飛ばした。
「どうして?」兵士は高い声を出した……
「くそぉ!」
 タケルが再度光線剣を振り下ろすと、白いアームプロテクターごと、スパッと切れた兵士の両腕がライフルと共にどすんとその場に落ちた。
 空気を切り裂くような悲鳴が上がる。
 兵士の目は恐怖の色に染まり、肘から先の無い手を拝み合わせるようにしてその場に立膝をついた。
「もうやめて……」
 蚊の泣くような女の声……懇願は間に合わなかった。
「セイ!」
 タケルの二刀目が振り下ろされ、兵士の頭は白いヘルメットごと縦に真っ二つになった。同時に、粘度の高い液体のようなものが切り口から少し飛び散る。
 体験したことの無い、いやあな感触……
(リアル過ぎる……これはゲームじゃないのか?)
 全身に残る感触が、タケルに疑惑を突き付ける……
「何なんだよ……」情けない声が思わず漏れた。
 ぷーんと立ち上がる生臭い匂い……
 タケルは斬った相手から目が逸らせず、ぶるぶると全身を震わせながらも、頭の無くなった立膝の兵士の背中側へと横歩きして回り込んだ。
 真っ二つになって、両肩から首の皮一枚で背中に逆さにぶら下がった顔……目を背ける前にタケルは思わず見入ってしまった。
 背が高いからてっきり男だと思っていたが、若い女みたいだ。女子高生位? そう言えばさっきの声だって……
 スローモーションで、斬った瞬間がタケルの脳裏に蘇る。
 光線剣がずぶりと兵士の頭に入り込み手前に引き抜かれる。
 真っ二つになった白いヘルメットが両側に飛び散る。
 ゆっくりと女の顔が真ん中から二つに割れ、頭の天辺から徐々に左右に開き、脳みそがはみ出す。
 半分になった顔が仰向くように両側に崩れ落ちて、両肩の向こう側へと消えて行く。
 背中の裏側で硬質な甲高い音が響き、ほぼ同時に、何か巨大な豆腐や寒天みたいなゲル物質が潰れたような、嫌悪すべき不気味な音が続いた。
 頭の右半分と左半分の頭蓋骨がぶつかった音、脳組織が破壊された音だ。
 その証拠として立膝の兵士の裏側に、大量の脳みそがドロっと床に流れ落ちるのが見えた。それは床に激突して飛び散ると、大型動物の排泄物同然になった。
 タケルは声にならない叫び声を上げて、その場に光線剣を放り出した。
 白い光線はシュンと音を立てて消え、小さな棒だけが床にコロコロと転がった。
「トミー、ゲーム終了!」
 声を振り絞ってタケルは叫んだ。★★★


++++++++以下次回へと続く+++++++++



テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

オリジナル近未来SFアクション小説「黒い美学」第7回ー長編全28回
[前回までのあらすじ]
 アメリカのスペースウォーズ防衛計画から誕生したスーパーバイオコンピュータが、一般ビジネスおよび家庭向けに開発された。その「パーソナルトミー」は超高性能ゆえに、ゲーム中の仮想現実世界は驚異的にリアルなのだ。
 2033年7/2、江戸川台小学校5年3組の親友、二宮タケルと山田ヒロシの2人は、オンラインRPGゲーム『聖夜の誓』でもチームを組んでいて、古戦場跡ステージのラスボスを攻略すべく、2組のライバルチーム、シンジとイチローと協力することにした。
 2組の2人はラスボス・シュートミーの銃弾の餌食となったが、タケルとヒロシは抜群のチームワークを発揮してこの難敵をどうにか下し、崩れかけたビル最上階までのステージを制覇した。油断していた所に突然、そのフロア奥の扉から完全武装の兵士が侵入して来た。物音に気付いたヒロシは素早くショットガンを向けたが、侵入者のガン捌きは彼を上回っていた。親友がやられ怒りに燃えたタケルはポケットから光線剣を引き抜いた。その名の通り短い棒の先に白く輝く光線が飛び出し、次いで「光線剣で、目の前の敵を斬れ!」と言う声が頭の中で響いた。タケルは兵士の銃弾をはじき飛ばしながら兵士の頭を真っ二つに切り裂いたが、ぞっとする感触はリアルそのものだった……
 
 


++++++++++これより本編+++++++++++


★★★
 背中の裏側で硬質な甲高い音が響き、ほぼ同時に、何か巨大な豆腐や寒天みたいなゲル物質が潰れたような、嫌悪すべき不気味な音が続いた。
 頭の右半分と左半分の頭蓋骨がぶつかった音、脳組織が破壊された音だ。
 その証拠として立膝の兵士の裏側に、大量の脳みそがドロっと床に流れ落ちるのが見えた。それは床に激突して飛び散ると、大型動物の排泄物同然になった。
 タケルは声にならない叫び声を上げて、その場に光線剣を放り出した。
 白い光線はシュンと音を立てて消え、小さな棒だけが床にコロコロと転がった。
「トミー、ゲーム終了!」
 声を振り絞ってタケルは叫んだ。★★★
 どこからともなく現れた従者トミーが「この地点でセーブして終了いたします」と答えた。
 気が付くとタケルはアフタールームに居た。
 ヒロシもシンジもイチローも、皆タケルの帰りをそこで待っていた。
「俺、光線剣で女を斬り殺しちゃった……」
 タケルはその場に腰が抜けたようにしゃがみこんだ。
 まだ全身の震えは止まらない。
「あの兵士、女だったの?」
 あの場でライフルで撃たれ、ゲーム上では殺されたヒロシは、目を丸くしてびっくりした。
 自分がショットガンを構えた方が早かった筈なのに、兵士のライフル射撃の方が早かったのだ。背だってかなり高かった筈だ。
「高校生位の女だった」
 下を向いたタケルはそう答えるのがやっとだった。
 奥歯を強く噛み締めているのか、えらの辺りがひくひくと動いている。
 ただならぬ様子を感じて、シンジがアフタールームをロック状態にした。
 アフタールームは外にも幾つでもあるから、プレーヤーは個室の様に使用することができるのだ。
「裏ボスかな?」興味津々のイチローが問う。
「いや、あれは間違い無く人間のプレーヤーだよ」
 タケルは無表情に頭を起こしたが、視線を誰とも合わせようとしない。
「ライバルプレーヤーか? じゃあ俺達がシュートミーをやっつけるのを待ってて、出し抜こうとしていたって訳か?」
 シンジは腕組みをしてそう言った。
 タケルは首をゆっくりと振った。
「どうかな? あいつ、あのダンジョンに突然出てしまったって感じだったし、外に仲間も居なかったようだ……」
 タケルは、女兵士と出くわした時の情景を頭に浮かべた。
 ヒロシもその意見に同意して そんな感じだったねと冷たい響きで言った。
「でも小ボスでも裏ボスでもなく、そいつがただのプレーヤーだとしたら、やっぱりあのステージはタケル達が制覇したってことになるな。そいつらのチームは、シンジと俺のチーム同様ステージ攻略に失敗しただけさ」
 イチローはゲームモードから抜けられないようだ。そのシーンに遭遇していない以上、それは当然の反応だろう。
 シンジは首をひねっている。その外見とは似合わないが、冷静で慎重な所があるようだ。
 ヒロシはタケルの横顔を見詰めている。
「そうじゃない。俺、本当にあの子を殺しちゃったんだと思う」
 タケルがそう言ってうずくまると、その勇気を知っている外の三人も黙り込むしかなかった。
 暫くしてからタケルが口を開き、何故女兵士がプレーヤーだと思うのか、何故実際に殺したと感じたか、普通のゲームプレーとどこが違っていたか、一つ一つ説明を始めた。
 外の三人はそれを聴いて一緒に検討して行く形になった。
 光線剣で斬った時に女兵士の両腕が飛んだこと、それ自体は参加プレーヤーでは考えられないことだから、CPUが作り出した敵キャラであることの証明のように思える。
 一方で、攻撃されることを本気で恐れていた様子、最後に「もうやめて……」と命乞いしたこと、これらは敵キャラとしては考えられない反応だ。
 かと言って、あれがライバルプレーヤーだったとしても、そんな命乞いなど普通はしないだろう。
 あの、両腕が切り落とされた痛みとショックが本物だったから、彼女に死の恐怖を与えてしまったのではないのか?
 とどめを刺した時のこと……それを考えただけで、タケルはまた全身で震え出した。
 ヒロシはそっとその肩に手を載せた。
「頭が真っ二つになって…………脳みそが流れ出した…………アイツの背中には…………半分子の顔が…………首の皮だけで逆さにぶら下がっていた…………」
 タケルは途切れ途切れに独白した。
「何言ってるの?」
 ヒロシが肩に置いた手を引っ込めて後ずさった。
 その目は何故か爛々としている。
 イチローは、その意味を全く理解できないという様にぽかんと口を開けた。
 シンジは事態の異様さに顔を顰めながら、何とか状況を理解しようと努めていた。
「そいつ黒くならなかったのか?」シンジが訊く。
「全然……」タケルが答える。
「その光線剣どうした?」シンジがさらに質問する。
「あの場に捨てて来た」タケルが答えた。
「どうやらその光線剣には重要な秘密がありそうだな」
 シンジは、タケルを見下ろした目をヒロシに移して止めた。
 ヒロシは「そうだね」と考え深げに反応した。
「勝手に動くし」タケルが呟く。その目は空ろだ。
 その言葉の意味を問われ、タケルはライフルの銃弾を光線剣が勝手に反応して弾き飛ばした事を話した。
 そしてあの声のことを話した……
(光線剣で、目の前の敵を斬れ!)そう誰かが、頭の中に直接呼び掛けたことを……
 シンジは暫しの間腕組みをして、何事かじっと考えている。
 ヒロシはタケルの様子を見守っている。
 シンジはヒロシを見てからイチローに向き直った。
 イチローは目をぱちぱちとしばたたく。
 シンジがまた何か妙なことを考えていることを経験的に直感したようだ。
「ヒロシ達はあのステージをクリアしてる筈だから……イチロー、明日俺達だけで光線剣を探しに行こう。その女兵士の死体を確認するんだ」
 そうシンジが提案すると、ヒロシはシンジを見て、次いでイチローを見る。
「頼むよ」ヒロシは目を輝かせ同意した。
 イチローはさらに口の端をゆがめた。
「またあのシュートミーとの対決からかよ。俺達二人だけで大丈夫かな?」
 イチローが怖気づくと、シンジがジロリと睨んだ。
 イチローはどうしようもないなと両手を開いた。
 シンジとヒロシの視線が一段と接近する。
「わかったわかった」イチローは漸く声に出して同意した。
 今の話を果たして聴いていたのか、タケルだけは一人沈黙していた。
「まあ俺達に任せて、報告を楽しみに待っててくれ。きっと後になれば笑い話になるさ」
 シンジがそう言うと、ヒロシもイチローも一緒になって、三人が右手を重ね合わせ「星夜に誓って」と声を揃えた。
 間も無く四人はアフタールームで解散した。

 翌日七月三日の夕方……
 某民放TVのニュースで短いスクープ報道があった。
「最近少年少女の間で爆発的ブームを巻き起こしつつある、オンライン型ロールプレイングゲーム『星夜の誓』ですが……
 ゲームソフトメーカーの『ケンタウルス』は、このオンラインネット対戦ゲーム版について、一斉点検が終了するまでの間オンラインサービスを無期限停止すると、明朝正式に発表する模様です。
 詳しい状況については現在の所不明ですが、複数の人身事故が発生しているという未確認情報もあります。
 本件については、詳しい状況がわかり次第続報をお知らせいたします……さて次のニュースですが……」
 ニュースを見ていたシンジは、「人身事故」と云う言葉が、昨日タケルから聴いた話と関係が有るかも知れないと気にはなったが、それ以上に、昼に外出したきり帰って来ない飼い猫のミーコの行方の方が気になってしょうがなかった。
 妹が過剰にミーコの心配をするのと「大丈夫だよ、明日になれば帰って来るさ」と言う、両親の気楽さが対照的だった。
 シンジ自身は、愛すべき妹のことを考えるとじっとしていられなかった。

 イチローの家でも飼い猫のレオが昼過ぎから帰って来ない。
 彼は夕食後近所を二時間ほど掛けて探し回ったが、レオが見つかる兆しは一向に無かった。
 他の事が何も手に付かず、イチローは深夜の再捜索を思い立ったが、玄関を出る間際で母親に止められてしまった。

 その翌日、七月四日……
 午前中の授業が終わって午後零時十分には、小学CAFEのテーブルに、タケル、ヒロシ、シンジ、イチローの四人全員が顔を揃えていた。
「昨日の夜のニュース見たか?」
「今朝のニュースの方が詳しいらしいよ」
 ヒロシはテーブルのマイクに向かって「今日のTVニュース」と言った。
 テーブルから小型ディスプレーが立ち上がり、ニュースの項目がずらりと並ぶ。
 ヒロシは「RPG『星夜の誓』で人身事故発生?」という項目をタッチした。
 次いで視聴域制限を掛ける。
 これでこのテーブル以外のメンバーには、映像も見えないし音も全く聞こえない筈だ。
 ディスプレー画面を食い入るように見詰める四名の少年達を、周囲の少年少女達が、一体何を見ているのだろうと怪しんでいる。
「……二日前の七月二日、オンラインRPG『星夜の誓』をプレイ中の、少年少女合わせて十名が突然死しました。その原因は不明です。警察当局は、何が起きたのか全力で捜査に当たっていますが、今の所これといった手掛かりは掴んでいない模様です……」
 四人は青くなった顔を同時に見合わせた。
「昨日のTVニュースで言っていた人身事故って、十人も死んだのか?」
 シンジはそう言って、タケルとヒロシを見る。
「みたいだね」ヒロシは、シンジとタケルを見た。
 タケルは両手で頭を抱えて俯いた。
「タケルがやった女の子もそれに入ってるのかな?」
「イチロー!」とシンジが嗜めると、イチローは「だって……」と口ごもった。
 この時点ではまだ、イチローにとってレオの失踪事件の方が重要だったから、単に空元気を出そうとしただけだったのだが、その場の空気は相当に重くなってしまった。
「オンラインサービスの停止で俺達の調査はできなかったし、これからどうしたらいいんだ?」
 シンジには良い考えが少しも浮かばない。
「暫く様子を見るしか無いよ」
 ヒロシは、まだ下を向いたまま頭を上げようとしないタケルに、心配そうな視線を送った。
「警察に連絡した方が良いかな……」
 下を向いたままのタケルが呟く。
「いや、ここはもう少し皆で様子を見よう」
 シンジが皆の目を確認して大きく頷いた。
「そうだね」「俺もその方が良いと思う」ヒロシとイチローも即座に同意する。
「じゃあ、このことは俺達四人だけの秘密だ」
 シンジが宣言する。
「おう!」
 ヒロシとイチローが声を揃えると、タケルは視線の定まらないままで皆の顔をのろのろと見回した。★★★




++++++++以下次章へと続く+++++++++




テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

オリジナル近未来SFアクション小説「黒い美学」第8回ー長編全28回
[前回までのあらすじ]
 アメリカのスペースウォーズ防衛計画から誕生したスーパーバイオコンピュータが、一般ビジネスおよび家庭向けに開発された。その「パーソナルトミー」は超高性能ゆえに、ゲーム中の仮想現実世界は驚異的にリアルなのだ。
 2033年7/2、江戸川台小学校5年3組の親友、二宮タケルと山田ヒロシの2人は、オンラインRPGゲーム『聖夜の誓』でもチームを組んでいて、古戦場跡ステージのラスボスを攻略すべく、2組のライバルチーム、シンジとイチローと協力することにした。
 ラスボス・シュートミーは強敵で、倒すまでにシンジとイチローの二人が犠牲となった。ステージ制覇を喜んでいたいた時、突如新しい敵が現れヒロシまでが銃弾に倒れた。怒りに燃えたタケルが光線剣を引き抜くと、筒の先に飛び出した光線は敵の銃弾をも弾き飛ばした。「光線剣で、目の前の敵を斬れ!」と言う声が頭の中で響き、タケルは兵士の頭を真っ二つに切り裂いたが、ぞっとする感触はリアルそのものだ。恐怖からタケルは光線剣を放り出しセーブしてその場を脱した。アフタールームで待っていた3人に女を本当に殺してしまったと告げると、次第に仲間達も事態の異常さに気づき始めた。
 翌日夕方のニュースでは、オンライン型ロールプレイングゲーム『星夜の誓』のオンラインサービスが無期限停止となりそうだと告げていたが、翌々日のニュースではオンラインプレー中に十名が突然死したと報道された……
 
 


++++++++++これより本編+++++++++++





     第二章 捜査本部

 東京警視庁本部は、二〇二五年に三十階建てのハイテクビルに生まれ変わった。
 屋上にはヘリポートが設置され、常時二機の高速プロップエンジン大型ヘリが待機しており、事件現場までは短時間で移動可能だ。外に追跡用の小型ヘリも二機常駐させているが、寧ろこちらの方が機動性が高い為活躍の場が目立っている。
 逆に、街で起こる凶悪事件の減少に伴い、所有パトカーと白バイの数は半減していた。
 一方、ネット犯罪など知的犯罪の級数的な増加に合わせるように、犯罪分析と予防捜査が警察本部のメイン業務になりつつあり、刑事部と生活安全部の統合問題が緊急課題になっていた。


 その東京警視庁刑事部捜査第一課小会議室で、二人の男が苦虫を噛み潰したような表情をして捜査資料を拡げている。
 正確に言えば、苦虫を噛み潰している端正な顔の男は、大きな机の後ろで肘掛付きリクライニングシートのお任せ三十分コースマッサージを受けている方で、もう一人のやや若く背の高いサラサラヘアで長髪の男は、眉を寄せながらその横に立ち、捜査資料を上司の指示に従ってディスプレーに映し出す操作をしている。
 端末でも音声処理できないことはないが、警察では会議の席以外では音声処理を使わないのが一般的だ。二千年代初頭のマウスの役割を果たすのは、瞳の動きを追うアイトレーサーである。またキーボードの役割は、認識率と先読み力の高いペンパッドを使うが、若い男の操作はかなり手馴れている。
 若い男の操作した画面は、苦虫の男のチェアに付帯するディスプレーにも映し出されている。
 苦虫の男はマッサージを強制的に終わらせると、椅子を正位置に戻した。
 そしてディスプレーを暫く凝視した後、画面から目を逸らし、右手人差し指を鼻筋の通った高い鼻に当ててしばし沈黙する。
「どう思います? 管理官」
 やや若い男は、低音だが良く通る声で呼び掛けた。
「どう思うって言ったってな。肝心な部分の記録が一切見つからないんだ。今の所お手上げだろ」
 管理官と呼ばれた男は、指を鼻に押し当てたまま、質問者に目だけを向けた。その声はやや高く皮肉っぽい口調だ。
 質問者は管理官を見詰めてから、背を真っ直ぐに立て直すと、事件を整理するかのように話し出した。
「わかっていることと言えば、突然死した十人が、いずれもオンラインゲーム『星夜の誓』に参加中、単独行動を取っている時に死んだということ。
 だから彼らが死んだ時、オンライン上の目撃者は居ない。
 また、彼らの家族はたまたま全て外出中で、オフライン上の目撃者も無かった。
 死亡したこども達は、いずれも普段から健康に問題は無かったが、解剖の結果、外傷は見つからず、心臓発作とよく似た症状が見られること。
 彼らの家屋には、外部からの侵入者があった様子は全く無い。
 彼らの使用していた各コンピュータと、オンラインサーバーを調査した結果からは、彼らが単独行動になってからHP=0で強制退場となったこと以外のめぼしい記録は今の所何一つとして見つかっていない。
 最後に亡くなった犠牲者だけは、外の九人と違って、ゲームの中でかなり長い時間単独行動を取っていたことがわかっている……」
 管理官は説明者に真っ直ぐ顔を向け直し、鼻にやっていた右手人差し指を前後に振ってこう質問した。
「それはどの位の時間だ?」
「四時間半ほどです」
 管理官は頷いて次の質問をする。
「最初の犠牲者が出たのは何時だ?」
 説明者はディスプレーを操作して時系列表を映し出した。
「七月二日の正午位ですね……最後の犠牲者が出たのが、同日午後四時過ぎです」
 管理官は両腕を組んであごを引き、独り言のように呟く……
「外の九人の被害者達よりも、最後のガイシャのオンラインが早いのか?」
「その通りです。大体外のガイシャの場合は、突然死するまで単独行動を取った時間は長くて三十分位です」
「最後の犠牲者が単独行動する前に、どの位オンラインしていたかわかるか?」
 管理官は、再び高い鼻に人差し指を押し当てる。
 説明者は管理官の質問に対し、手帳を取り出して詳細に語り始めた。
 すると管理官は「お 坂井、かなり詳しいじゃないか」と皮肉っぽく言って、椅子を説明者の正面に向けた。
 坂井警部は大きなデスクに半ケツを掛けて、その手帳をひらひらとさせた。手書きの手帳は、現場回りをする刑事の勲章みたいなものなのだ。
「犠牲者十人の家族と、ゲームの相棒の聴き取り調査を十人で分担したんですが、梨本さんが目を付けた最後の犠牲者については私が担当しましたからね」
「まだ目を付けたとは言ってないぜよ……それにしてもへたくそな字だな」
 梨本管理官は、坂井警部自慢の手帳を取り上げ、ぱらぱらと捲りながらそう言った。
「またまたぁ、目星付けたんでしょう?」
 梨本がぽんと返して寄越した手帳を内ポケットにしまいながら、坂井は疑わしそうに笑う。
「まあ、お前もまだ現場大好きデカってことなのかな?」
 梨本の皮肉を、坂井は全く気にしていない。それは本当のことだったから……
「梨本さんのサブにしていただいたことは本当に感謝しています。デスクから指示する仕事に中々慣れてなくて、すみません」
 梨本の指摘に対し、立場上坂井は言訳をした。
「『事件は会議室で起こってるんじゃない』とでも思っているのだろう?」
 梨本は坂井を見やる。
 坂井はちらと梨本を見ただけで、また視線を外し「そんなことはありませんが……」と言葉を濁した。
 梨本はにやっとして、まあいいさと言いながら立ち上がった。
 背の高さは長身の坂井と変わらないが、梨本の方はかなり痩せている。
「現場大好きなデカ達は、報告書に全部を書くことはないからな。まあ、あまり詳細に書いてもらっても、今度は読む方が大変なんだが……」
 梨本はそう言いながらテーブルを半周し、坂井を振り返った。
「では調査に当たった十人を招集して一時間後に緊急会議だ」
 梨本の掛け声に対し、待ってましたとばかり
「はい! 管理官」と答え、坂井は最敬礼した。

 七月四日夕方……
 東京警視庁、刑事部捜査第一課の大会議室に、捜査第一課の捜査官九名を集めて緊急臨時会議が始まろうとしている。
 梨本管理官および坂井警部管理官付が、正面の雛壇大机の後ろに立った。
 警視庁長官(=警視総監)および副長官が、正面向かって左サイドに置かれた大机の席に着いている。
 長官及び副長官には、それぞれ秘書官が付いているので総勢十五名である。
 正面の二百インチELディスプレーが点灯し『星夜の誓連続殺人事件』の文字が映し出されると、捜査官達が一瞬ざわめいた。
「では……本日七月四日午後四時、『星夜の誓連続殺人事件(仮称)捜査本部』第一回会議を始めます。私は本事件の管理官、梨本警視正です」
 梨本はやや高い声で挨拶したが、そこで間を取ると、二名の警部補と七名のデカ長と呼ばれる巡査部長、合計九名の刑事達に向かって軽く一礼した。
 次に、右斜め先のお偉方に向かって深々と礼をする。
 それに対して、小柄で精悍な佐藤警視総監と、でっぷりとして眉の太い田中警視監は、共に重々しく頷いて見せた。
 梨本は正面に顔を戻す。
 その身体は細長いが、自信たっぷりなせいか威風堂々として大きく見えた。
「本事件の戒名はまだ仮称であります。
 くれぐれも対外的には、『星夜の誓事件』とだけ呼称し、連続殺人の部分はカットして下さるようお願いする。
 また本日は、佐藤警視総監と田中警視監に、緊急会議ということにも関わらずご列席いただいております。
 その理由は、本事件について、参議院選挙間近ということもあって、大泉総理大臣が大変憂慮されており、本事件を『緊急事態』と捉え、布告を発し、自ら警察を統制し、警察庁長官を直接指揮する考えを滲ませた発言を、今朝の閣議で行ったからであります」
 ここで一旦話を切ると、集まった面々は一様に驚いた様子を見せ、所々でざわつき始めた。
 こほんと、梨本が一つ咳払いをする。
「従って、本事件については百%の確信がある訳ではありませんが、連続殺人事件と見て捜査本部を本日付で設置いたします。
 国民的重大事件の早期解決に向けて先手を取り、我々刑事部捜査第一課の力を結集しなければならない。
 ここまではよろしいでしょうか?」
 ここで梨本は佐藤警視総監を見る。
 佐藤は眉間に縦皺を刻み、軽く咳払いをして頷いた。
 ここで右後方に陣取った刑事から手が上がった。★★★


++++++++以下次回へと続く+++++++++





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オリジナル近未来SFアクション小説「黒い美学」第9回ー長編全28回
[前回までのあらすじ]
 アメリカのスペースウォーズ防衛計画から誕生したスーパーバイオコンピュータが、一般ビジネスおよび家庭向けに開発された。その「パーソナルトミー」は超高性能ゆえに、ゲーム中の仮想現実世界は驚異的にリアルなのだ。
 2033年7/2、江戸川台小学校5年3組の親友、二宮タケルと山田ヒロシの2人は、オンラインRPGゲーム『聖夜の誓』でもチームを組んでいて、古戦場跡ステージのラスボスを攻略すべく、2組のライバルチーム=シンジとイチローと協力することにした。
 ラスボス・シュートミーは強敵で、倒すまでにシンジとイチローの二人が犠牲となった。ステージ制覇を喜んでいたいた時、突如新しい敵が現れヒロシまでが銃弾に倒れた。怒りに燃えたタケルが光線剣を引き抜くと、筒の先に飛び出した光線は敵の銃弾をも弾き飛ばした。「光線剣で、目の前の敵を斬れ!」と言う声が頭の中で響き、タケルは兵士の頭を真っ二つに切り裂いたが、ぞっとする感触はリアル過ぎて恐怖のあまりタケルはその場を去った。
 翌々日のニュースで『星夜の誓』オンラインプレー中に十名が突然死したと報道され、四人は秘密を守る約束をした。
 7/4、警視庁刑事部では本事件の管理官・梨本警視正と坂井警部が捜査会議前の検討を行っていた。1時間後に緊急会議が始まり、仮称とは言え事件の戒名が『星夜の誓連続殺人事件』と発表され、集まった刑事達は一様に驚く。会議には警視総監と副総監も列席し、何やら本論に入る前から波乱含みだ……
 
 


++++++++++これより本編+++++++++++


★★★
「従って、本事件については百%の確信がある訳ではありませんが、連続殺人事件と見て捜査本部を本日付で設置いたします。
 国民的重大事件の早期解決に向けて先手を取り、我々刑事部捜査第一課の力を結集しなければならない。
 ここまではよろしいでしょうか?」
 ここで梨本は佐藤警視総監を見る。
 佐藤は眉間に縦皺を刻み、軽く咳払いをして頷いた。
 ここで右後方に陣取った刑事から手が上がった。★★★
「キミ」と斜め左を指差し、梨本はその男の発言を許した。
「山岡警部補です。梨本管理官、この時点で本件を連続殺人事件とする見込み捜査を行って、もしも違っていた場合にはどうなさるつもりですか?」
 小柄ながら筋骨隆々、えらの張ったあご、大きく分厚い唇を持つこの壮年警察官は、梨本に喰らい付く様に発言した。
 その声も外見に劣らず張りのある低音だ。
「そのご意見はごもっともだが、この会議が終わる頃にまだそう考えるならば、もう一度意見してくれたまえ」
「何か掴んでるようですね」
 梨本の答えに対し、ふん おもしろいじゃないかと言わんばかりの様子で、山岡は椅子に腰を降ろした。
 数名の刑事が山岡を振り返る。
 山岡は梨本を睨んだ後、佐藤警視総監と田中警視鑑を返す刃で睨み付けた。
 佐藤と田中は素知らぬ振りを決め込んでいる。
「外に無ければ捜査会議の中身に入りたい。坂井君頼む」
 うるさ型のベテラン刑事をいなした後、梨本は坂井に進行役を命じた。

 本日昼前、梨本と坂井が先程の打ち合わせに入る少し前のことだった。梨本は長官室に呼ばれた。
 佐藤警視総監と田中警視鑑が二人共顔を揃えて待っていた。
 長官は次のようなことを話し始めた……
「本事件については既に刑事部で捜査を始めてもらっているが、実は警備部部長からも捜査協力の申し出があるのだ。災害なら当部の災害対策室の担当だろうと彼は言うのだな。
 また、生活安全部からも今以上の捜査協力の話がある。ハイテク犯罪対策課の方で全面協力すると言うのだ。
 これだけの注目事件だ。どちらも部内からの突き上げが強いのだろう。
 まあ私としては指令系統が一本化していないと、捜査に支障を来すことを懸念しているのだ。
 だから君にこの先も任せたいと考えている。そういう訳で、今の所は両部の部長達を必死で抑えているのだが……
 所で君はこの事件を事故だと思うかね?」
 梨本は、今の所事故の可能性も捨て切れないが、本件は犯罪の匂いが強いと率直に答えた。
 そうだろうと言って、長官は続けた。
「君が刑事犯罪だと思うなら、人が多数死んでいるのだから、当然殺人事件と考えるのだろうな。
 うん? まだ確信が無いのか、まあいい。
 君も生活安全部の指揮下に入るのは望まんだろうしな。
 実は今朝の閣議で、大泉総理がどでかい花火を打ち上げてくれてな。大変なことになった……」
 佐藤は閣議の様子を詳細に語った上で続けた。
「事件は警視庁の手で早期解決しなければならん。
 警察庁長官の指揮権など使われて、警視庁にごちゃごちゃねじ込まれたりしたら、解決できるものもお宮入りになってしまう。
 警察組織全体の変更に繋がる様な因子は、この際摘んでおかなくてはならない。
 総理は警視庁の歴史について何もわかっておらんのだ。
 そこで、君に話がある。
 君は捜査官の増員を申請していたな。しかし捜査一課にはこれ以上割ける要員は無い。それは君も承知のことだろう。
 特別に二課と三課辺りから少し引っ張ってやろう。五、六名ならすぐ増員を許可しようじゃないか。
 だが、その為には事故の線では無理だ。殺人事件でなくてはな。
 君もそう考えているんだろう。いや、君の考えは私にはわかっておる。殺人事件で捜査本部を設置したら良いじゃないか。
 私は君の捜査手腕を普段から買っておるのだ。
 生活安全部の大木君には、私の方からもう一度良く言っておく。何、奴にこれ以上の口出しはさせん。任せておけ。
 この事件は実に君に向いている。君にやってもらった方が、確実に早期解決を期待できるというものだ。
 私は君の事を信頼しているんだよ、梨本君」
 こんな調子で、佐藤の殆ど一方通行的な小会議は終わった。

「先ずオンラインゲーム『星夜の誓』は……」
 長身でがっしりした坂井は、簡単に自己紹介してから、主に佐藤警視総監と田中警視監向けに、ディスプレーを操作しながらゲームの説明を五分ほどかけて行った。
 その声はソフトな低音だが良く通る。
 参加者の各テーブルにもディスプレーが付いており、正面の大画面を見ても、各自の小画面を見ても今の所同じことである。
 坂井の丁寧な説明の間、それぞれの秘書官が上司に補足説明していたが、やがて秘書官二人が目で合図を送って来た。
 坂井は事件の概要を次の五分間で説明し、愈々本題に入って行った。
「……さて、ここまではTVのニュースなどで、誰もが知り得る事です。
 次に事件の当日は、子供の突然死ということで、各家庭においては病院への連絡搬送、不在家族の召集連絡などがあわただしく行われたようです。
 また意識不明の患者、実は既に死亡していたのですが、その患者が搬送された各病院では、死因究明の為病理解剖が必要だとして、家族に対し丁寧な説明を行ったが、被害者が子供ということもあり、どこもその説得には大分苦労したようです。
 そして各病院の担当医師達は、中央病理センターへ患者の突然死についてメール報告した。
 その報告内容からは、病院に搬送されて来た時点でいずれの被害者も心停止しており死亡と判定された為、治療行為は殆ど行われなかったことがわかっています。
 突然死の報告が次々と集まって来た中央病理センターでは、いずれもオンラインゲームプレー中という共通項目があり、事の異常性に注目して、警察と厚生省当局に対し即刻通知したと言っております。
 突然死被害者に対しては、一部病理解剖として解剖が行われたものもあります。
 何分、特異な事件なので、病理解剖すべきか司法解剖すべきかについては、厚生省幹部とうちの総務部長との間で調整の為の話し合いが持たれまして、結局、共同作業という形で司法解剖が行われました。そうした経緯があって、半数の遺体は中央病理センターで保管されております。
 さて、中央病理センターから最初に連絡を受けた本庁のコールセンターは、速やかに捜査第一課に通知内容を回付しました。
 これが七月三日午前五時過ぎです。
 当課は早朝に課員を緊急招集し、直ちに捜査に当たらせました。
 現在もゲームソフトメーカー『ケンタウルス』社には、課員十名を配置して捜査続行中です」
 ここで佐藤警視総監が質問した。
 相変わらず眉間には縦皺が刻まれている。その声は野太い。
「ケンタウルス担当の者は一人もこの会議に出てないようだが、それで大丈夫なのかね?」
 梨本管理官がその質問に答えた。
「ケンタウルス担当班からは、一時間前に最も新しい報告が来ておりますが、今の所事件の核心に迫る情報は一切ありません」
 ありのままに梨本が答えると、佐藤は不満を隠さずに詰問した。
「とすると、このまま連続殺人の線で行くには、少し無理が無いかね?」
 実はこう質問した佐藤自身が梨本を追い込んで、殺人事件の線で捜査を進めろと指示していたのであるが……梨本自身も、今は連続殺人説に大きく傾いていたので、長官の責任転嫁の姿勢をやや余裕を持って受け止めて見せた。
「確かに、オンラインサーバーの情報を見ても、ゲームソフトの仕組みを見ても、ケンタウルスがこの事件に関与している可能性は今の所皆無ですが」
「それで大丈夫かね? 梨本君」
 そう訊いたものの、その物腰から梨本の大きな自信を嗅ぎ取って、佐藤はやや安心したようだ。
「これから、各捜査官の報告に基づいた情報を整理して提供いたしますが、その中には事件解明の有力なヒントが隠されていると、私は確信しております」
 余裕しゃくしゃくで、梨本が佐藤に頷いて見せた。
「そう願いたいものだね」
 佐藤がその渋い言葉とは裏腹に満足していたのに、隣の田中副長官はわかり切ったことを繰り返した。
「わかっているだろうね梨本君。総理と警察庁の介入を許さない為に、捜査は十分に進んでいると報告済みなのだ。ここはなんとしても、警視庁の手で早期解決を果たさなければならないのだよ」
 これは梨本の誘導通りだった。
 うまく行かない時は、全て梨本管理官の独走ということで、その責任を転嫁しようとしていた二人の大幹部は、捜査会議の席上で自らが梨本に無理な指示を出していることを示唆したのである。
 佐藤が隣席の田中を睨むと、田中は漸く自分のミスに気が付いて、首をすくめ俯いた。
「重々承知しております」
 笑みを含んで梨本が答えると、
「梨本君、今後の捜査方針は全て君に任せたよ」と、佐藤は了解の言葉を与えざるを得なくなった。
 その直後、佐藤は隣の田中に向けて、唇に人差し指を当てて見せた。
 もうしゃべるなという合図である。
「さてよろしいですか?」と、このやりとりを受けて坂井が説明を再開した。
「この会議に集まった刑事九名と私の十名で分担して、被害者十名の家族と、ゲームでチームを組んだ相棒に対し事情聴取を行いました……」
 ここで坂井はディスプレーを操作する。
 十件の突然死事件が、被害者の名前のあいうえお順に一画面に表示された。
 発生時刻、発生場所、被害者の年齢等の情報も含まれている。
「これらの十件の突然死を一連の事件と捉え、時系列で再整理しました。これがその結果です」
 ディスプレー上、被害者の名前の順番が入れ替った。
 捜査官達が一様になるほどと頷く。
「突然死の時刻はいずれも、HP=0で強制退場した直後と推定されます。
 各被害者はゲームプレー中、ヘッドギアコントローラによって脳波状態を常にモニターされており、各使用コンピュータにはその記録が保存されていました。
 いずれのケースにおいても、HP=0の瞬間にユーザーの脳波停止が記録されています。
 また血圧はスタート時に測定されるだけですが、パルスの方は常時モニターされておりまして、全ケースで脳波停止から五分以内に心停止したことが記録から判明いたしました」
 そこで坂井はディスプレーを操作した。十件の事故が、時間帯の中でグラフィック表示されて行く。
「このように、十件の突然死は約四時間の間に発生し、間隔はほぼ一定。短いもので二十分、長くて三十分。二四〇分間で十件、平均二四分に一回の割合で発生したことになります」
 多くの捜査官が、ぶつぶつ言いながら首を傾げている。
「この日、この十人の中で一番始めにオンラインゲームに参加した者がこの女性黒川アンナ、十五歳です」
 黒川アンナのクローズアップ写真と全身写真が、ディスプレー一杯に表示される。
 全身写真の方は、最初の表示から少し縮尺されて等身大で表示された。身長は一七〇位あるだろう。
 この二百インチELディスプレーならば、どんな長身の人間でも等身大で表示可能だ。画質はスーパーハイビジョンだから、元の写真の解像度が高ければまるでそこにいるかのように再現できる。
 また、同じ条件で撮影した角度の違う二枚以上の写真があれば、立体表示することすら可能である。
 実際アンナの全身写真は二枚あったので3D表示された……
 最初の写真が表示された時にも漏れた、会議の参加者からの歓声は、3D表示されると一段と高くなった。
 黒川アンナはそこいらの若手TVタレントや映画女優よりも美しかったからだ。その素晴らしいプロポーションは、アメリカ人の母親の血とジャズダンスで鍛えたものらしい。
 歓声が静まるのを待ってから坂井は報告を再開した。
「彼女の住所は西東京市三鷹町三丁目。
 見ての通り、母親がアメリカ人でアンナは日米のハーフです。
 この黒川アンナ関係は自分が捜査を担当しました。★★★


++++++++以下次回へと続く+++++++++





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